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シリーズ アスベスト47 下野新聞 石綿訴訟 国に賠償命令 「やっと認められた」 原告 国謝罪なしに憤りも

 「苦しみがようやく認められた」。国に賠償を命じた19日の判決を、大阪府阪南市の原まゆみさん(66)は安堵の思いで聞いた。工場の中は雪のように舞う粉塵で、近くの人の顔もよく見えない。そんな環境も危険と思わず、夢中で働き続け、石綿肺に。もう体は元に戻らない。「国は早く謝罪を」と訴えた。
 徳島県で生まれ、1961年に紡績産業の集積地だった大阪・泉南地区へ。半世紀近く、計8カ所の石綿工場などで働いた。高度成長期の石綿工場は常にフル稼働。幼い子をあやしながら作業したこともある。職場も家も石綿が舞い続けていたが、当時の泉南では珍しい光景ではなかった。
 潜伏期間が長く「静かな時限爆弾」と呼ばれる石綿は90年ごろから体をむしばみ始める。胸の違和感は次第に強まり、2000年ごろには息苦しさで夜中に目が覚めることが多くなった。06年には石綿肺と診断された後は趣味のカラオケにも行かなくなった。
 「石綿が経済成長を支えたのに、国が責任を認めないのはおかしい」。亡くなった同僚らの無念を伝えるため、原告団に加わってからは、街頭で被害を訴えるなど精力的に活動した。自宅から大阪地裁までは電車を乗り継いで1時間以上。薬は手放せず、駅の階段もつらい体だが「わたしが生き証人になるしかない」と踏ん張った。
 工場労働者だった原さんには労災が適用されているが、部分的な救済だけで謝罪をしようとしない国の姿勢が許せない、と憤る。「知らん顔はおかしい。国はなぜ石綿が危険だと知らせてくれなかったのか」。判決後に「患者は高齢者も多い。国はすぐにでも解決に向けて動いてほしい」と注文をつけた。
 

     緑が目に優しい

シリーズ アスベスト46 下野新聞 石綿訴訟・国に賠償命令 救済策枠組みに影響か 患者側「公害」補償を期待

木漏れ日によるコントラストが美しい緑を

 

 アスベスト(石綿)被害をめぐる集団訴訟で大阪地裁は19日、国に賠償を命じる判決を言い渡した。高度成長の「負の遺産」といえる石綿被害は、工場周辺住民でも確認され、今や国内の患者が数十万人と推計されるほど深刻化。行政の対応遅れをはっきり認めた判決は、責任の所在があいまいなまま進む救済策の枠組みを変える可能性もある。
 安価で耐火性に優れ「奇跡の鉱物」と呼ばれた石綿。戦前は主に艦船など軍需製品に、戦後は自動車や建物など幅広く使われた。大阪府南部の泉南地域は、最盛期の1960〜70年代には全国の8割近くを生産し、日本の高度成長を支えた。
 [爆弾]
 だが肺癌などを引き起こす危険性が高く、潜伏期間は30〜40年。いったん発症すると治療は極めて難しく、患者の多くが死亡するまで症状に苦しみ続ける。「静かな時限爆弾」といわれる石綿の恐ろしさが国民に知れ渡ったのは今世紀に入ってからだ。
 石綿による疾病は「職業病」と位置付けられ、労災補償での救済が基本だったが、兵庫県尼崎市の工場周辺住民の健康被害が発覚した2005年の「クボタショック」を機に、国は労災が適用されない人達の救済にようやく動きだした。
 06年、当時の小池百合子環境相が「隙間のない救済」を掲げる中、石綿健康被害救済法が施行。周辺住民について対象を肺癌と中皮腫患者に限定した救済策には、患者側の不満も強いが、今年7月から石綿肺とびまん性胸膜肥厚も救済対象に加えられるなど、見直しも進んでいる。環境省の担当者は「救済法そのものが否定されたわけではない」として、判決が見直し作業に影響することはないとの考えだ。
 [責任]
 だが健康被害を招いた責任について、国はこれまで「あくまで使用者の企業側にある」との姿勢を崩していない。救済についても「賠償責任と切り離した制度」と位置付けており「謝罪がなく、給付額も不十分」と救済拡大を求める患者との隔たりは大きい。
 判決は「規制権限の不行使が被害拡大を招いた」と国を厳しく非難した。支援団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の古川和子副会長は『職業病』から『公害』に位置付けが変わり、行政の責任が明確になれば、現行の見舞金も補償金へと変わり、金額が上がる可能性が高い」と期待する。

シリーズ アスベスト45 2010年2月号 石綿被害救済小委員会 傍聴雑感

 第三回を傍聴しての雑感を、述べさせて頂きます。
 委員会の小委員長からの依頼を受けて、北海道中央労災病院の木村院長のヒアリングがありました。内容は「じん肺における合併症」についてでした。続発性気管支炎の診断の困難さについて、事例をあげながら説明されました。主旨は、正確な診断ができないから続発性気管支炎は認定疾病から外すべき、もしくは慎重に検討すべきだ、ということであったと思います。

 具体的な事例として、A病院で聴覚障害事件(不正受給)が起き、医師と社会保険労務士が起訴され、A病院での続発性気管支炎の鑑別結果をチェックしたところ誤った鑑別が行われていた。従って、続発性気管支炎を認定疾病に入れることは止すべきであろう、という主旨でした。

 A病院の鑑別をチェックした結果を国家機関の公の席で云々される木村院長は、ご自身の鑑別結果に余程の自信がおありなのだと、信じたいと思います。この特異な事例を拡大解釈し、全国の鑑別結果も非常に疑わしい、という主張が強く印象付けられました。

 この論法はお粗末な組み立てになっていると思われます。A病院の聴覚障害事件は石綿とは全く関係がないことは勿論ですが、説明を受ける側に予断を与え錯覚を起こさせるための仕掛けであり、この事件は医療者側とそれを管轄指導する行政側の問題であります。自分たちの側の落ち度による不祥事の結果を、一罰百戒とばかり患者側で始末するという不可解な発想に違和感を覚え、憤りをさえ禁じ得ません。

 各委員は冷静に受け止めていられるようで、この中学生にも分かる論法には取り合わない姿勢が見えました。問題は木村氏を労災病院の院長に任命した組織、そしてヒアリングを要請した事務方のほうであり、石綿被害者の人権や生きる権利をどう考えているのか。
 A病院のことよりも重大な問題を含む国民の息の根を止めるような思考形態に饐えた匂いさえするのでした。(埼玉県 毛利敬)

 

左側の雲がこの後下がって一日中・曇りの天気となりました

シリーズ アスベスト43 2010年1月号
 石綿新法の見直しに向けての動きが始まった

雪の重さで孟宗竹も頭を下げた

 

 第一回の環境省小委員会が11月27日に開催され、患者と家族の会から傍聴に参加しました。今回の小委員会には石綿対策全国連絡会議の古谷杉郎事務局長が委員として選ばれ、当日は中村会長が参考人として意見を述べました。
 この様な形で当事者が委員会に参加することは、かつては考えられなかったことです。これはひとえに、被害者が声を挙げ続けた成果だと思います。
 冒頭で田島環境副大臣の挨拶があり「小委員会に対しては二つの事項についてのご意見を伺って参りたい」と言われました。第一には「指定疾病については石綿肺をはじめとする他の疾病の取扱いについての審議」、第二は「5年以内に必要な見直しを行うために今後の救済制度の在り方について」です。そして最後は「当事者の皆様の声を充分にお聞かせ頂き、反映をして頂ければと思っている」と締め括りました。
 委員会の最初に古谷さんのプレゼンテーションが行われ、少し予定時間をオーバーしましたが皆さん真剣に聞き入っていました。古谷さんのお話は石綿被害の状況や被害者救済の不備が解り易く解説されていて、救済法改正の必要性を強く訴えました。終了直後に傍聴席から拍手が起こり私も思わず手を叩きそうになりましたが「あ、傍聴席だ」と思って控えました。そして中村会長からも全ての被害者救済の必要性を訴える意見が述べられました。
 今回大きな争点になっているのは、石綿肺患者の救済範囲です。環境省が対象とするのは「管理4相当」の重篤な方たちです。労災では認定になる「管理2以上の合併症」の方たちは対象になりません。会議の中で委員の先生から「(線維化所見が)本当に石綿が原因かどうか、大量の暴露確認が必要」といった意味の言葉がありましたが、「偽患者探し」ともとれるこの発言は心外でした。
 かつてこの様な委員会では被害者の意見や声などを反映することは難しかったでしょうが、今回は当事者も同じ土俵の上に立って意見を述べ、公害の歴史を変える時が来たのです。(副会長 古川和子)

シリーズ アスベスト44

 下野新聞 アスベスト国交省調査 県内141棟 対策未実    施 公共賃貸住宅は使用なし

 
県内の大規模な民間建築物283棟で露出したアスベスト(石綿)が確認され、そのうち半分の141棟でまだ対応が済んでいないことが18日、国土交通省の調査結果発表で分かった。公共賃貸住宅での使用は、今回は1棟も確認されなかった。
 大規模建築物は、延べ床面積が千平方メートル以上の工場やビルが調査対象。県内では対象4520棟のうち、4152棟から報告があった。飛散防止などの対策工事が済んでいない141棟のうち、29棟は「指導により対応予定」、112棟は「指導中」となっている。
 県内公共賃貸住宅の調査対象は2494棟。今後調査予定の22棟を除き、アスベストを使った住宅は1棟もなかった。
 全国調査結果によると、大規模民間建築物では、1万6212棟で吹き付けたアスベストが露出。対策工事が済んでいるのは62%にとどまり、残る38%の6081棟は未対応だった。
 公共賃貸住宅では、全国24万棟のうち9月末時点で、1139棟でアスベストが使われており、うち18棟は除去など対策工事が未実施だった。同省は、対策未実施でも壁や天井の内側などに使用が限られるため健康への影響はないとしている。
 公共賃貸住宅の調査は2005年にも実施しているが、08年に対象物質が追加されるなど基準が強化されたことを受け、あらためて調査した。
 

 心の森から塩那道路 使用できない道路

シリーズ アスベスト43
 2009年11月 中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 会報より
 中央環境審議会の小委員会に被害者代表を入れ、救済給付の指定疾病に石綿肺「合併症」などを追加

   雑木林と青空

 

 10月26日、環境省は「石綿による健康被害に係る医学的事項に関する検討会報告」を発表し、救済給付の拡大対象を、「著しい呼吸機能障害きたす場合」(じん肺管理区分4相当)のみに限定しようとしています。
 そこで、患者と家族の会は、28日の中央環境審議会・健康保健部会の開催をはさんで、相次ぎ申し入れ書を環境正副大臣・中央環境審議会に送りました。
 労災では、石綿肺の管理4はもちろん、管理2と3の合併症「続発性気管支炎など」も、びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水も補償しています。
 一方、救済給付は、自営業者など、労災が適用できない石綿被害者を隙間なく救済するものです。
 ところが、環境省の官僚は、著しい呼吸機能障害をきたさない被害者を分断差別しようとしています。
 また、中央環境審議会の委員が、被害者代表を、新たに設置される石綿健康被害救済小委員会に入れるようにと提案したのに、環境省(石綿対策室)は被害者の意見を聞き置くだけで、制度決定から排除しようとしています。
 小委員会に石綿被害者の代表を入れ、救済給付の指定疾病に石綿肺「合併症」なども入れ、労災並みの給付にすべきです。(事務局)

 厚生労働省へ要望書提出と交渉

 10月15日、全国労働安全衛生センターの交渉が衆議院第一議員会館にて行われ、参加しました。労働安全衛生・労災補償について諸問題を提起し石綿補償についても交渉されましたが、特に復帰前・沖縄米軍基地の石綿による疾病の認定については「担当者が出席していないから回答できない」、若い頃の石綿作業を行ったことによる労災給付基礎日額・低額問題についても「回答者がいない」という厚労省の逃げ腰なのか、問題に取り組む気がないのか、と感じるような対応に参加者全員があきれ、腹立たしく思いました。
 なお、労働者時代に石綿作業を行い、その後の労災特別加入時代に石綿を吸ったのが軽徴な場合、労働者の平均賃金で給付するという事務連絡による見直しは、63件中6件を労働者平均賃金に直したと報告されました

 石綿関連肺癌の労災について、石綿小体が乾燥肺重量1gあたり5000本必要として、補償をせばめようとしている対応、歯切れが悪く誠意が感じられない回答に何時になったらこのような行政の体質が改善されるのか、他人(ひと)の半生に係わる補償をアスベストについてよく知らない人達に判断されてしまうことに矛盾を感じます。そもそも私の周りには医療関係者でさえ誰一人として中皮腫がアスベストに起因する病気だと知らなかったので、これは国の責任ではないのかと言いたくなります。

 同席して下さった阿部知子衆議院議員、遠く沖縄から参加された沖縄労働安全衛生センター及び齋藤つよし・玉城デニー衆議院議員、全国安全センターの皆様ありがとうございました。 (副会長 高橋 晴美)

 

  心の森キャンプ場・白樺

シリーズ アスベスト42

 読売新聞 米の有毒建材 国内で確認 都内など4か所 石綿と同等「ひる石」

 米国で中皮腫などの健康被害を引き起こして問題となった米・モンタナ州リビー産の鉱物「ひる石」が、東京都内の事務所ビルなど計4か所で建材として使われていたことが12日、NPO法人「東京労働安全衛生センター」(東京都江東区)の調査で分かった。リビー産ひる石が国内の建物で使用されていたことが確認されたのは初めて。
 ひる石は建材や土壌改良材として使われる鉱物で、これ自体に毒性はないが、リビー産には強毒性のアスベスト「トレモライト」とほぼ同じ性質の鉱物が含まれている。米国ではリビー産ひる石を扱った労働者らが中皮腫を発症し、米連邦政府が2000年頃から住宅などに使われたひる石の除去対策に乗り出している。
 今回見つかった4か所は、東京のほか香川の公民館2か所と北海道の公共ホールで、いずれも室内の天井に吹き付けられていた。北海道では既に除去され、東京も飛散の恐れがないが、香川は今後、飛散防止対策を取る予定。同センターは「国は輸入量や使用実態を調べた上で対策を検討するべきだ」としている。

 

 雑木林の陽の光が入っている 写真より現地では美しい

シリーズ アスベスト41

 女郎花「小さな花です」

 

 長妻昭厚生労働大臣殿
 中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会

 アスベスト労災補償に関する要望書

 歴史的な政権交代により、国民の新たな希望を担って日々のご尽力に感謝いたします。さて、「ミスター年金」こと長妻大臣の手腕に国民一同大きな期待を寄せておりますが、私達石綿被害者も平等な補償への道が開かれる事に大きな期待を抱いております。
 我が国の高度経済成長を夢見て命がけで働いて災害を被った労働者とその遺族に、正当な補償をして頂きたく、その中でも更に緊急だと思われる事案を以下要望いたします。

 1 隙間なく公正な補償・救済及びアスベストのない社会の実現に向けて、関係行政機関等が戦略的・整合的に連携していくために、「アスベスト対策基本法」の制定に努力すること。家族曝露、立ち入り曝露、周辺曝露についての発生源自体の事業場の所管は貴省であることを踏まえ、環境省と一体となって関係者(住民を含む)の健康管理制度を確立すること。

 2 肺癌については、厚生労働省発行のパンフレットに記載されていない「不当な認定基準」が横行している為に多くの労働者が救済されていない。
  ⇒私達はこれを「裏通達」という。世間に公開していない自分達で作った認定基準で被災労働者を切り捨てているが、この様な役所の体質を改善するべき。
 @ 「石綿による肺癌事案の事務処理について」(平19.3.14.基労補発第0314001号)を直ちに廃止すること。
 A 石綿肺や胸膜プラークの医学的所見がなくても、石綿曝露歴が十分に明らかであれば認定すること。石綿小体5000本は石綿曝露10年未満の基準であり、それ未満であっても石綿曝露の実態を総合的に判断して決定すること。
 B これまでに石綿肺癌で不支給になった事例すべてを見直し、同一時期、同一職場で労災認定事例があるものはすべて救済すること。合わせて、石綿肺癌の不支給事例の理由を整理し、決定労基署、石綿曝露作業などを含めて公開すること。

 3 給付基礎日額については、基本である「労働者の生活補償」が正当に行われていない。
 @ 平成21年8月8日付事務連絡「労働者としての石綿曝露期間のある特別加入者の給付基礎日額の取扱いについて」に基づき、現在請求中の事案はもとより、過去に支給決定した事案についても調査し、不合理な場合には遡及して給付日額の変更を行い、支給すること。

 バラ・クリスチャンディオール

 

 労災日額是正の事務連絡を出させる

 石綿疾病の労災給付基礎日額(休業・遺族補償)が、5000円以下にされることがあります。それに対する個々の不服審査がおこされ、労働基準監督署の低額決定の取消し裁決が報じられ、事務局が国会議員とともに厚生労働省と折衝したところ、8月6日に『労働者としての石綿曝露期間のある特別加入者の給付基礎日額の取扱いについて』という事務連絡が出されました。

 その中味は、「従前に労働者としての石綿曝露期間がある特別加入者であって、石綿関連疾患に罹患している者のうち、特別加入していた期間における石綿曝露作業が、それ以前の作業内容と異なり極めて軽徴な石綿曝露作業である一方、労働者期間における石綿曝露作業が石綿関連疾患に罹患する恐れの高い作業であったと認められるなど、特別加入期間における保険関係・給付基礎日額をもって保険給付を行うことが明らかに不合理な場合については、労働者時代(特別加入期間以前)の最終石綿曝露作業・事業場の保険関係・給付基礎日額をもって保険給付を行うこと」というものです。

 長年労働者として石綿作業に従事したあと、自営となり特別加入して日額を低く設定していても、労働者時代の平均賃金に是正するものであり、一歩前進です。
 なお、石綿肺は、石綿作業のうち、労働者期間と特別加入期間をくらべ、長いほうの保険関係などで給付されます。(事務局)

シリーズ アスベスト40

 ロイヤル・プリンセス

 

 一宮訴訟勝訴判決決定後の感想
 松田法律事務所 松田 竜

 (1) 平成21年4月10日、最高裁が被告の上告受理申立を不受理決定し、一宮訴訟の原告勝訴判決が確定しました。アスベストセンターをはじめ、関係各位のご協力によりこの度の判決がえられました。まずは御礼申し上げます。
 (2) 思い起こせば、私がこの事件に関与することとなったのは、被害者である一宮次男さんが、悪性胸膜中皮腫を発症し入院中、私がお見舞いした際に、「悔しい。後はよろしく頼む」との言葉を頂いたことから始まります。平成13年夏ころのことでした。
 (3) 当初は、次男さんが勤務していた使用者である会社からの正式の謝罪を求めることが目的でしたが、使用者側からは責任が無いとの一点張りであったため、平成16年6月に使用者の安全配慮義務違反を原因として提訴し、それから約5年間にわたり訴訟が続くことになりました。この裁判の進展と機を同じくして、いわゆるクボタショックと、その後盛んな報道等によりアスベスト汚染が社会問題化し、この訴訟の結果が重大な影響を及ぼさざるを得ないことを意識しました。
 (4) 審議継続中は、使用者側の杜撰な対応が次々と明らかになり、判決は、当然原告勝訴の判決がえられるものと考えておりました。ところが、平成19年3月20日の第一審判決は予想もしない原告敗訴判決でした。一宮さんはもちろん、アスベストセンターほかの傍聴人の方々、原告勝訴判決を予想して集まっていた多数の報道陣にも、驚きが広がりました。第一審の裁判官は、当時、報道等によりアスベスト汚染が大きく社会問題化していた時期でもあり、前例となる判決例が少なく、またホテルのボイラーマンという職種でアスベストの暴露量が判決例と比較して小さいことから、判決の影響を考えて萎縮し、原告敗訴という現状維持の判断をしたように思えてなりません。私は、全国のアスベスト被害者にたいする今後の影響というものを考えて、何とかこの判決を取り消させなければならないということだけを考えました。
 (5) 幸い、控訴審から古川武志弁護士に弁護団に参加して頂き、被害者が関与していたアスベスト作業の具体的な作業内容や、アスベスト暴露の実態の主張・立証を集中的に行い、控訴審では、平成20年8月29日に第一審判決取消原告逆転勝訴の判決を得ることができました。その後、さらに、使用者側の上告受理申立がありましたが、最高裁は、予想以上に迅速に上告受理申立却下決定を下し、決定当日に電話で不受理決定の連絡まで頂きました。私の経験では、最高裁の決定がこれほど迅速に為されたことはありませんし、電話で連絡を受けたこともありません。最高裁がこの判決の意義を認めている証拠だと考えています。
 (6) この裁判が原告勝訴で終わることができたことにより、私は被害者である一宮次男さんとの約束を果たすことができました。また、今後の被害者救済にも何がしかの好影響を残す事ができました。ひとえに皆様のご協力のおかげです。ありがとうございました。

 おまけ付き逆転勝訴
 古川法律事務所 古川 武志

 2007年3月2日、思わず我が耳を疑った報告を聞いたところから私の一宮裁判への参加が始まった。中皮腫について無理解としかいいようがない一審判決。これをそのままにしておけば中皮腫被災者は救済されなくなってしまう。
 実を言うと、私は他の弁護士が受けた事件を訴訟の途中から受任するのはお断りする方針をとってきた。しかし、そんなことは言っていられない。
 控訴から50日以内に控訴の理由を書いた書面を提出しなければならない。まず一審を担当した松田竜先生の記録を送ってもらい、検討し次に、札幌に行き亡くなった一宮さんの同僚に会い、原告や松田先生と打合せをし、そのまま奈良に行って学者の先生のご意見を聞きに行くという強行軍の行脚をした。この時点ではまだ逆転できる確信はなかったけれど、ここから控訴理由の書面の起案に取り掛かり、もう一度、基礎にかえって色々考え、調べ、起案し終わったときには逆転できるという確信を持った。書面は4月25日に提出した。
 この間、約一月半、今までの弁護士としての仕事の中で一番緊張が続いた時間だったように思う。心の準備も全くなく、いきなり一審が終了している事件の記録を与えられ、それを頭にすぐにたたき込んで、他の仕事もある中で、一月半の間に判決を論破する書面を書く、というのは正直言ってきつい経験で、朝、眠りが浅いときなど眠りながら文章をあれこれ考えて目が覚めることもあった。
 もう今後はご勘弁願いたいというのが本当のところだ。
 私なりにこんな苦労もしてきたが、結果は、大逆転勝訴。色々と配することもあったが、胸をなで下した。私はこの訴訟について必ず逆転するとあちこちで断言してきた。その確信が有ったことに嘘は全くなかったが、裁判の怖さは、本来、勝つべき事件でも裁判官のおかしな判断によって理不尽に負かされることがあることだ。ここは弁護士の努力でどうにもならない。だから私も不安であった。私のように訴訟慣れしている弁護士ですら、はらはらどきどきの連続なのだから、一宮さん親子や支援の方達はどれだけ不安だろうと思っていたし、だからこそ、皆さんの前では自信たっぷりの顔をしていたけれど、私に不安がなかったわけではない。
 逆転勝訴には大きなおまけが付いてきた。東京高裁は関西保温の事件で中皮腫被災者の死亡慰謝料を普通より低い1500万円としたが札幌高裁は普通より高い3000万円とした。安全配慮義務違反についても1960年頃から認めたと言って良い書き方になっている。札幌地裁のおかしな判断は全て退けた。少し勝ち過ぎと言っていい判決である。今後の裁判に大きな影響を与える判決で、中皮腫被災者救済の道を拡げる判決となった。
 この勝ち過ぎ判決を勝ち取った力は、何と言っても一宮さん親子と支援の方達の頑張りである。一審敗訴判決の衝撃に負けないで最後までよく頑張ったと思う。
 最後に、一宮さん、支援の皆様、本当にお疲れ様でした。そして、おめでとうございます。

 

  現在調査中

  ノリータ

 

 夫のアスベスト裁判を終えて
 一宮 美恵子

 4月10日、2時ごろ突然松田弁護士からの「裁判は最高裁不受理になったので勝ったよ」の電話に、言いようの無い喜びと永い戦いでしたのでお互いの心に通じる安堵の時が流れました。この場を御借りしまして松田弁護士には心からお疲れ様と申しあげたい。
 夫がこの病気になった頃は、まだまだこの被害を知らされておらず、勤めていたホテル側の対応は納得のいかない事ばかりでした。そんな時、姪と結婚したばかりの松田弁護士は若く正義感のあふれる好青年でした。結婚式に出席したのが発病2カ月前でしたので家族最後の宴となりました。
 夫に「後の事は頼む」と言われた一言を守り、その約束を果たしてくれました。思いもよらない地裁敗訴で、松田弁護士は私以上に心を痛めておりました。
 振り返ってみますと、この裁判がいかに難しく多くの問題をかかえていたかと気づきました。今ほどの知識があったのなら裁判を起こしていなかったのでは思うほどです。
 ホテル側の「裁判判例がないので会社は法にふれていない」の言葉に「何時か誰かがこの裁判をしなければ企業は同じ事を被害者に言うのだ」と思い、許す事が出来なく、父親思いだった娘の気持ちを思うと泣き寝入りはできませんでした。大変、無知で無鉄砲で無欲の戦いは周りの方に恵まれました。
 地裁の時からアスベストセンターの皆様、古川弁護士に協力を頂きながら裁判を進めてきましたが、ホテル側のノラリクラリの引き伸ばしに時間だけが過ぎていきました。私は「あきらめず、投げ出さず」と念じた毎日でした。やっとの地裁判決がまさかの敗訴となり「今後の被害者の為にもと思った裁判が迷惑をかけた結果になるのでは」と骨身に堪えました。
 高裁からは夫の仕事内容に絞られ、アスベスト訴訟の専門である古川弁護士の専門的な話を私にも理解できる内容で纏められ、裁判は有利に進み、昨年8月逆転勝訴となりました。その後、上告されましたが最高裁不受理扱いの連絡後に届いた書類には「裁判官(4名)全員の一致の意見で受理しない」とあり、胸のすく思いでした。辛かった事も悔しかった事も思い出となりましたが、大変残念な事に、不誠実なホテルは倒産し、弁護士、アスベストセンターには、充分なお礼が出来ず申し訳なく思っております。
 其れでも尚、心を一つにして6年もの長い間、戦ってこれたのも、皆が無欲であればこそ出来た事であったと思います。この裁判が今後の被害者にとってお役に立てたのであれば、我々へのご褒美と感謝します。

 父の裁判を終えて
 一宮 貴子

 4月でちょうど父が亡くなって8年目になります。8年前はがなぜ亡くなったのか、父が大好きだった会社に対して「腸が煮えくり返る思いだ」となぜ言っていたのか疑問だらけでした。その後、裁判を通して会社の父に対する考え方、態度を知り、父の悔しさがはっきりと分かりました。そして、その悔しさ、会社側の対応を知ってもらえたという事でも裁判をして良かったと思っています。
 地裁敗訴という結果には、非常に驚き、そして裁判の難しさを知りました。だから私達のように悔しい思いをしなければならないんだとも改めて感じました。最後まで会社からの謝罪はありませんでしてが、勝訴内容がとてもよかった事が、これから被害にあった家族が父のような思い、母や私のような思いをしなくてもいいのかなと思うとやっと気持ちが晴れたような気がします。
 最後に、弁護をしてくださった松田先生・古川先生、証言をしてくれた父の同僚・田村さん、何度も札幌に来てくれた永倉さん、名取先生、そして、支援をしてくれた方々、裁判という大変なことを父や私のために明るく頑張ってくれた母へ、悔しさを我慢するのではなく表現した事で、良い結果が得られて本当に良かった、ありがとうございました。

 

    アサガオ

 マダム・ヴィオレ

 

 地方公務員災害補償の変化と公害審査会について
 アスベストセンター 斎藤 洋太郎
 2009.6. 第12号
 
今年になって、地方公務員の中皮腫について、水道・交通など全国で7件、災害補償基金支部(原処分)段階で公務災害認定されました。
 そして、再審査段階の基金審査会(高倉 公朋審査長)は3月19日、大阪市の水道職員について公務外処分を取り消す裁決を出しました
 基金支部は次のように決定した。
 被災職員が石綿曝露作業を主たる業務として行っていたとは認められず、本件は職業病一覧表7号の7「石綿にさらされる業務に従事したため生じた肺がん又は中皮腫」に該当しない。
 被災職員の中皮腫は、「公務に起因することが明らかな疾病」ではない。
 実は、クボタショック後、社民党の代議士を通じて、神奈川労災職業病センターや全日本水道労働組合などとともに基金本部と交渉してきました。
 石綿疾病については基金支部は判断できず、本部で判断するが、専門医の引き受け手がおらず、認定作業が中断していたが、ようやく東京労働局の局医が引き受けてくれた。
 認定作業が開始されたが、公務は石綿曝露作業でないという上記の理屈で、東京都は1例以外、ことごとく公務外にしていた。
 それに対し、基金審査会の裁決は、明解でした。
 本件疾病が公務上の災害と認められるためには、被災職員が公務に関連して石綿曝露作業に従事し、そのことによって中皮腫を発症したものと認められる必要がある。」(労災認定基準に定める石綿曝露作業を列挙。
 被災職員は、排気管補修時の断熱材の除去・復旧、ガスケット・パッキングの交換・加工作業を行っていた。したがって、石綿曝露作業を長期間行っていたと認められる。
 被災職員は石綿が吹き付けられた下水処理場において作業しており、壁面に接触した際に石綿が作業服に付着する可能性がある。吹き付け石綿を施した室内での機器点検作業において、石綿を吸った。
 地方公務員についても、ようやく労災並みに認定されるようになったといえます。石綿曝露作業には直接作業も、間接・周辺作業(吹き付け石綿建物内の暴露を含む)もあり、因果関係を立証する必要があります。

 公害審査会が、環境省の判定を批判
 救済給付(労災以外)で、注目すべきは、昨年9月・11月・今年3月と続く、公害健康被害補償不服審査会における、環境再生保全機構の処分取り消し9件です。公害審査会は、かなり手厳しく原処分を批判しています。

 中皮腫と厳密に診断・判定できないからといって、中皮腫として認定(救済)できないのはおかしい。
 中皮腫の可能性がある、中皮腫であることを否定できない、という程度救済してよろしい。
 中皮腫の判定には、医学的要件だけでなく、石綿曝露歴も判断材料にしてよい。
 肺がんについても、石綿曝露歴かつ胸膜肥厚班(プラーク)があるなら石綿疾病として判定してよろしい。
 特に、肺がんについて、石綿曝露歴も判断材料にして認定せよとしているのは、現行医学要件(肺がんなら、プラークかつ石綿肺)を踏み越えるものです。審査会は国会同意人事であり、そこが判定要件を踏み越え、救済の立場から医学的要件が足りなければ、暴露歴も加味して救済せよ、としている意味は大きいと思います。
 指定疾病拡大(石綿肺も救済する)と合わせ、従来の救済給付制度は見直しを迫られているといえます。

 

      紫陽花

   変わった紫陽花

 

 第44号 2009年7月
 いつになったら環境省は、石綿公害を認めるのですか?

 6月18日、環境大臣に「石綿健康被害救済法見直しに関する要請」を行い、その後記者会見を行いました。クボタショック以降、全国で声を挙げた各地域の被害者が「アスベスト被害地域ネットワーク」を作り、要請行動をおこなったのです。ネットワークの地域は尼崎・泉南・河内長野・奈良・岐阜羽島・横浜鶴見、の6か所です。
 要請時には、各政党の国会議員の先生方に同席をお願いして、環境省からは原環境保健部長・泉石綿対策室長・同室長補佐などの方々が対応して下さいました。

 前日行われた平成20年度リスク調査の報告では、未だに石綿公害として認めようとしないばかりか、更には平成22年度から新たに胸膜プラークの方を対象に5年間調査を始めると言い出しました。

   水連の白花

 

 その事を踏まえて、要請の時に尼崎安全センターの飯田さんから「原因を明らかにする為にはこれ以上に何を調査すれば良いのか具体的に答えて欲しい」との質問がありました。他の人たちからも矢を浴びせる様に同じ質問が出ましたが、的外れな答弁ばかりで環境省からの明解な回答は得られませんでした。

 この2日間で感じたのは「国は結論を出さないで、先延ばしにしようとしている」という事でした。石綿公害という、誰が見ても明解な調査結果にさえも蓋をしたがる行政の体質をまざまざと見せつけられた感がしました。
 そしてここにも、無駄な時間と労力と多額な経費を注ぎ込んでいる国の政策を見出して「誰の為の調査を行い、誰の為の救済をしようとしているのか」疑問に感じました。私達は研究者の為の「対象」ではなく、生きて血の通った人間なのだ、と叫びたくなります。 (副会長 古川 和子)

 アスベスト関連ニュース
 中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 会報
 第43号 2009年6月
 環境省へ救済給付・指定疾患拡大(石綿肺)の申し入れ

 石綿健康被害救済法が施行されて3年が過ぎました。
 昨年、各政党へ働きかけをした結果、一部の見直しがなされ、12月から施行されています。本来、「労災補償が受けられない石綿による健康被害者を隙間なく救済する」として施行された石綿救済法でしたが、対象指定疾病が中皮腫と石綿肺がんのみの為に、多くの被害者が救済されていない事実が判明しています。

 この事実を受けて、公明党・田端正広議員のお力添えで、5月29日、衆議院議員第一議員会館の会議室で環境省・石綿健康被害対策室長と面談し、石綿救済法の指定疾病拡大(石綿肺)の申し入れを以下の通り行いました。

 (1) 石綿肺を指定疾病に指定し少しでも早く施行し、今苦しんでいる被害者を救済すること。
 (2) 労災の石綿肺との格差が危惧されるので、指定疾病の対象を労災同等の枠組みとすること。
 (3) 石綿肺(管理4)のみではなく、石綿肺+合併症も含むべき。
 (4) 申請の機会を広げること。最初から門前払いせずに、まず受付てから個別に審査すること。

  今後も引き続き、すべての石綿健康被害者が隙間なく救済されるように、石綿救済法の抜本的な見直しを求めて行きます。(会長 中村 實寛)

 

 ユリ カサブランカ

シリーズ アスベスト39

 只見川の一部・滝湖

 

 読売新聞 米基地勤務でアスベスト被害 国に責任 賠償命令
 横浜地裁支部
 
米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)でアスベスト(石綿)を吸い、悪性胸膜中皮腫になったとして、基地に勤務していた横須賀市池上、対間均さん(当時51歳)の遺族が、法的な雇用主である国に対し損害賠償を求めた訴訟の判決が6日、横浜地裁横須賀支部であった。栄春彦裁判長は「基地では十分な石綿の安全対策が取られておらず、責任は国が負うべきだ」と述べ、国に7684万円の賠償を命じた。
 在日米軍の現役従業員が提訴した石綿被害訴訟の判決は初めて。対間さんは在職中の2007年5月に提訴したが、10日後に死亡。妻美枝子さん(53)らが訴訟を引き継いでいた。
 判決によると、対間さんは1977年8月〜95年2月、横須賀基地でエアコン修理などに従事。石綿を含む断熱材などを扱ったが、国と米海軍は十分な粉じん対策を講じず、06年、悪性胸膜中皮腫と診断された。対間さんは同年8月に労災認定を受け、米海軍も07年3月に公傷と認めた。
 国側は「遅くとも83年以降は、石綿への安全配慮義務を尽くしてきた」と主張したが、判決は「原告の職場では、少なくとも87年まで、十分な石綿対策は取られていなかった」と指摘した。
 同基地の石綿問題を巡っては、じん肺患者の元従業員と遺族17人が99年に国を相手取って集団提訴。損害賠償の時効(10年)にかからない12人については、国に賠償を命じた一審判決が確定。第2、3次訴訟は和解が成立している。

シリーズ アスベスト38

 読売新聞 「石綿」労災認定61人上回る 1063.人 08年度
 
2008年度にアスベスト(石綿)による肺がんや中皮腫で労災認定を受けた人は1063人で、前年度を61人上回り、過去2番目に多かったことが厚生労働省の調べで分かった。申請者数は1268人で、前年度比141人増だった。
 認定者のうち、肺がんは503人、中皮腫は560人。業種別では建設業が498人で最も多く、製造業464人、運輸業31人が続いた。製造業の中で最も多かったのは、船舶製造で144人だった。
 都道府県別では、東京140人、兵庫114人、大阪92人、神奈川87人の順だった。これまでの最多は、認定者数が06年度の1784人、申請者数が05年度の1783人。
 

 紫陽花 素晴らしい紫色!

シリーズ アスベスト37

  突然、雪が舞いだした!

 

 読売新聞 南極隊員が石綿被害 220人調査へ 68年派遣男性
 昭和基地で吹き付け
 
文部科学省は23日、1968年に南極に派遣された観測隊に参加し、昭和基地の発電施設建設でアスベスト(石綿)吹き付け作業に従事した70歳代の男性から、アスベストを吸った人に特有の胸膜プラークが見つかったと発表した。昭和基地では、他の施設でもアスベストが使われていた。文科省は、国立極地研究所に相談窓口を設置、68〜98年に施設建設や解体作業に従事した220人を対象に順次、健康調査を行う。
 アスベストが使われていたのは、68年に建設、95〜98年に解体・撤去された「第9発電棟」と、70年に建設され、98年以降閉鎖されている「地震感震室」。
 発電棟では68年1月28日から3月12日まで約30人が断熱材としてアスベストを吹き付けた。この男性は研究者だが作業に参加していたという。健康診断で胸膜プラークを指摘され、元の勤務先である研究機関に昨年末、「石綿健康管理手帳」の交付を相談した。68〜98年までの間に南極には1500人あまりが派遣されており、文科省はアスベストを吸引した可能性のある人には、健康診断を勧め、健康状態を継続的に把握すべきだと判断した。
 アスベストの健康被害に詳しい岸本卓巳・岡山労災病院副院長は「男性の胸部エックス線画像を見る限り、吸い込んだ量は多くないようだ。作業期間が短く、暴露した時間もそれほど長くなかったためと考えられるが、健康状態の追跡調査は必要だ」と話している。相談窓口の電話は、03−3962−8733
 胸膜プラーク
 
胸の内側を覆う胸膜の一部が肥大化して固くなる状態を指す。アスベストを吸引後15〜30年で見つかるようになる。それ自体が中皮腫や肺癌に移行する可能性はないが、中皮腫などを発症する危険性が高まるため、経過観察が必要とされる。

シリーズ アスベスト36

 下野新聞 石綿被害 883事業所 07年度1100人、県内5カ所
 厚生労働省公表
 
厚生労働省は31日、アスベスト(石綿)による健康被害で2007年度に労災認定を受けたり、特別遺族給付金の支給対象になったりした人が働いていた全国951事業所のうち883の名称を公表した。県内では川崎重工業車両事業本部宇都宮工場(事業場廃止)など5事業所が含まれている。
 新たに被害が確認され、今回初めて公表されたのは718。残る165は過去にも公表された事業所だった。
 公表の基になった労災認定や石綿健康被害救済法の対象者数は計1101人。業種別では全体の半数が建設業で、船舶や自動車、鉄道車両などの製造業を合わせると、約9割を占めた。
 非公表となった68件のうち21件は事業所を特定できず、47件は建設業の個人事業主(一人親方)だった。
 県内5事業所でアスベスト被害を受けた従業員(退職者なども含む)は、それぞれ1人ずつ。肺癌や中皮腫で労災認定されたのは3人で、そのうち1人が死亡した。01年3月26日以前に死亡した人が対象となる特別遺族給付金は2人に支給された。
 今回公表された事業所は次の通り(かっこ内は所轄の労働基準監督署)。
 川崎重工業車両事業本部宇都宮工場(宇都宮)
 西川田自動車整備工場=現西川田自動車(宇都宮)
 アイコー栃木製造所(日光)
 関東電気工事栃木支店=現関電工栃木支店(宇都宮)
 渡邉スレート工業(真岡)
 厚生労働省が11月1日〜3日に電話で問い合わせを受け、4日以降は各地の労働局や労働基準監督署を中心に対応する。厚労省の電話は03・3595・3402
 相談は栃木労働局労災補償課、電話028・634・9118でも受け付けている(平日)
 被害を支援する全国労働安全センター連絡会議も1・2日、電話相談を受け付ける。電話はフリーダイヤル0120・117554.
 

    もみじの紅葉 3色
緑・赤・黄色 いいですねぇ!

シリーズ アスベスト35

     ハゼの紅葉

 

 08.10.9. 指定疾病の範囲拡大も検討を加速
 
6月3日、衆議院環境委員会では「環境保全の基本施策」に関する質疑の中で、民主党の末松義規議員が、与党・民主党実務者協議の中で解決できなかった「指定疾病の範囲の拡大」の問題を取り上げた。
 鴨下一郎・環境大臣の回答は、「環境省では現在、医学的知識やデータの集積、さらには海外の状況の把握等を進めるとともに、健康リスク調査等を通じて職業性曝露以外の曝露による石綿関連疾患の発症状況などを精力的に調査しているところ、調査についてはできるだけ早く結論を得て、その結果を踏まえて救済のあり方について検討を加速してまいりたいと考えている」というもの。
 この点について、環境省は、すでに水面下での検討をはじめている模様である。例えば、石綿肺について、最重症=管理区分4相当に限定等の姑息な対応では苦しむ被害者は救えない。「労災並み」に療養が必要なすべてのアスベスト関連疾患患者を救うこと、さらに加えれば、住民や自営業の曝露者に対しても「労働者並み」の健康管理体制の確立が必要なことを強調しておきたい。
 また、「法施行5年後である2011年を待たずに抜本的な見直し」をという質問への回答の中では、環境省が全国6地域で実施している健康リスク調査及び被認定者に関する曝露状況調査(いずれも翌6月4日に2007年度調査結果が公表された)が、法施行後5年以内の見直しに向けた取り組みであるという位置付けを明らかにしている。
 この日の委員会の最後に、「石綿健康被害救済法の一部を改正する法律案起草の件」が発議され、用意された起草案が委員会提出法律案(提出者は環境委員長)として全会一致で可決された。
 なお、委員会発議の法案なので質疑は行われていないが、意見の表明ということで各党の代表者が発言している。
 自民党の佐田玄一郎議員は、今回の改正案で対応策が講じられることとなった諸問題はいずれも周知の不足に起因していると指摘して、政府に、@制度の周知徹底、A制度に関連する情報の開示、B総合的なアスベスト対策の推進を要望。「与党においては、今回の改正法の施行状況や残された課題について、政府の取組をフォローし、引き続き被害者の迅速な救済を含めた総合的なアスベスト対策を推進する」と表明した。与党PTが、「今後の検討課題」を確認していることは、6月号27頁で紹介したとおりである。
 民主党の田島一成議員は、関係省庁に、@救済対象疾病の労災並みに拡大(政令改正)、A現行法の不備で救済を断念してきた被害者・遺族に対する改正内容の周知徹底、B死亡年別の労災補償件数・特別遺族給付金支給件数等の情報公開、C引き続き抜本的な見直しの検討、D縦割り行政の弊害を克服し政府一丸となってアスベスト対策に取り組むことを要請。「今回の改正は、あくまで救済を受ける権利を失うことがないよう隙間を埋めただけのことであり、……マラソンに例えるならば、折り返し点手前の給水ポイントに到達したにすぎない」、「アスベスト総合対策推進法を制定して、一日も早く築くべきノンアスベスト社会というゴールまで、私たち民主党もアンテナをさらに高く掲げて、全力で取り組む」と表明した。
 公明党の江田康幸議員は、制度の周知徹底にからんで、「特に被害者の方々と直接向き合う医療機関の役割は重要であり、関連疾患に関する診断技術の向上や知識の普及、専門家の育成について、対策を急いでいただく必要がある」と要望。
 改正法案は、6月15日の衆議院本会議でも全会一致で可決された。

シリーズ アスベスト34

 法施行5年以内見直しまでに請求権失う「隙間」を埋める 民主党・与党協議合意をもとに改正法が成立
 
与党と民主党の合意事項
 1 医療費・療養手当の支給対象期間の拡大
   療養開始日から医療費・療養手当を支給する。
  ※ただし、遡及は認定申請から3年まで
  ※医療費等(医療費+療養手当+葬祭料)が特別遺族弔慰金等(特別遺族弔慰金+特別葬祭料。計約300万円)に満たない場合は差額を救済給付調整金として支給する。
 2 制度発足後における未申請死亡者の扱い
  (1)請求可能な期間
   支給の請求可能期間を死亡から5年とする。
  (2)未申請死亡者への救済給付内容
   特別遺族弔慰金等(約300万円)を支給する
 3 制度発足前死亡者の特別遺族弔慰金等の請求期限
 法施行日から6年間(平成24年3月27日まで)に延長する。
 4 特別遺族給付金関係
  (1)特別遺族給付金の請求期限の延長
 
法施行日から6年間(平成24年3月27日まで)に延長する。
  (2)特別遺族給付金の支給対象の拡大
 
法施行日の5年前の日から法施行日の前日までに死亡し、労災保険上の遺族補償給付を受ける権利が時効(5年間)により消滅した遺族に対しても、特別遺族給付金を支給する。
 5 事業所の調査等
 
救済に必要な情報を十分かつ速やかに提供するため、石綿を使用していた事業所の調査、その結果の公表、石綿による健康被害の救済に関する制度の周知及びそれらの実施に当たっての関係行政機関の連携に関する規定を新設する。
 6 公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から実施する。
  
 2011年までの「隙間」が埋まる
 
合意事項の内容を、6月号の解説に即して検討すると、以下のように整理できる。
 1は、「申請後給付要件による隙間」を埋めるもので「療養開始日に遡及して支給」することは、民主党案・与党案ともに共通であったが、最大遡及期間は、有利な与党案にしたがって3年とされた。
 また、民主党案・与党案とも記載がなかったが、2007年3月26日で廃止されていた「救済給付調整金」も、恒久措置として復活することになった。
 2は、「生存中手続き要件による隙間」を埋めるもので、医療費・療養手当を支給するという与党案ではなく、特別遺族弔慰金を支給する民主党案を採用しつつ、請求可能期間は、民主党案の「死亡から10年」が「死亡から5年」に短縮された。
 最も早い場合は、2006年3月27日に死亡した事例で、このばあい、2011年3月26日までに請求を行わなければならないということになる。
 3及び4(1)の「請求期限の延長」については、民主党案の「法施行日から6年(3年延長)」(2012年3月26日まで)とされた。
 4(2)は、「新たな労災時効」に対応しようとするもので、民主党案は、労災時効の5年に加えてさらに5年救済法による特別遺族給付金を受ける機会を確保してより普遍的に時効問題の解決を図ろうとしたものだったが、与党案は、「やむをえない理由により」、「今回の改正法の施行日(2001年X月X日)前に」時効になったもの(2001年3月27日から2003年X月X日までに死亡した事例、2年数カ月分)に限って、特別遺族給付金の支給対象を拡大するというきわめて限定的な提案だった。
 結果的に、法施行日の5年前の日(2001年3月27日)から法施行日の前日(2006年3月26日)までに死亡した事例――2006年3月27日〜2011年3月26日の間に労災時効を迎える事例(5年分)に、特別遺族給付金の支給対象が拡大されることになった。
 請求期限は、4(1)によって、「法施行日から6年(3年延長)」(2012年3月26日まで)になる。「労災時効」救済――特別遺族給付金については、「支給対象の拡大」と「請求期限の延長」という、二つの改正が関係するので、注意していただきたい。
 このことは、たんに与党案よりも2年数カ月分対象範囲が拡大されたということではなく、1〜3の措置とあいまって、救済法の見直しの期限である法施行から5年後=2011年3月26日までの間に、労災補償あるいは救済法による救済のいずれも受けることができなくなるという「隙間」を完全に埋めることができたということを意味している。
 また、今後においても、「労災時効」により権利を失う事例が出てくる場合がありうることをあらかじめ想定して、その救済措置をさだめたという意味で、「労災時効」見直しに向けた足がかりとなり得る措置であると言える。であるからこそ、厚生労働省はこれに最後まで反対したわけであるが、今後、この救済措置の実績を踏まえたうえでの検討が不可欠である。
 5の「事業所の調査等」は、与党案にはなかったが、民主党案が採用され、6の「施行期日」については、民主党案の「公布の日から3月以内」ではなく、与党案の「公布の日から6月以内」とされた。
     
 厚生労働省は最後まで悪あがき
 
合意成立を受けて、6月2日までに、これに基づいた新たな改正法案が作成され、民主党と他の野党との話し合いも行われた。
 しかし、最後の最後まで厚生労働省が悪あがきをしたことは、記録にとどめておいた方がよかろう。「新たな労災時効」救済対象の拡大に係る規定(第59条)に、「やむを得ない理由により労災保険法の規定による遺族補償給付を受ける権利が時効によって消滅したものに限る」という文言を勝手に書き加えたものである。
 民主党サイドから、「合意事項から逸脱する」という指摘を受けて、6月2日の夜に急遽訂正されて、翌6月3日に国会に提出されることになった。
 このことは、7月28日の毎日新聞地方版「おおいた評論」でも「姑息な官僚発想」と批判されている。曰く、「それ[新しい被害者が救われない矛盾を改めようと与野党が合意していた]なのに、厚労省は『やむを得ない事由がある場合のみ(時効延長)を認める』という一文を与党案に挟み込んだという…。理不尽な壁を取り払う改正なのに、救済範囲をできるだけ広げようとしない姑息なやり口だ。市民団体や議員が気付いて削除したのだった。もともと厚労省は『権利があるうちに行使しないのが悪い』との考え。大きな社会問題になっているのに被害者心情を考えない官僚的発想に、救済運動のパイオニアである石綿対策全国連絡会議の事務局長は嘆く」
 筆者は、民主党に協力して今回の改正論議の最初から最後まで見届けることとなったが、実質的な攻防はいかに官僚、特に厚生労働省の妨害・抵抗を押し切るかというところにあった。民主党の関係者は、非常にうまく与党関係者を説得し、また、与党が官僚――特に厚生労働省を抑えて決断を下せるように働きかけてくれたと感謝している。
 全国安全センター/石綿対策全国連絡会議 古谷 杉郎
 

 紅葉したハゼ。本当に真赤になります。

シリーズ アスベスト33

   テントの中で談笑

 

 08.9.17. 読売新聞 中皮腫不認定やり直し 公害不服審査会、4件命じる
 
環境省の公害健康被害補償不服審査会は、アスベストで中皮腫になったとして、石綿被害健康被害救済法(アスベスト新法)に基づき、「環境再生保全機構」(川崎市)に救済を求めたものの認定されなかった東京都北区の女性患者(39)ら4人について、認定審査をやり直すよう同機構に命じる裁決を16日、明らかにした。アスベストによる救済給付で、同審査会が医学的判断に踏み込んで審査のやり直しを求めたのは初めて。裁決は現行の認定が厳し過ぎると批判しており、今後の審査に影響を与えそうだ。
 裁決の対象は北区の女性のほか、大阪府吹田市の男性患者(66)、高槻市と名古屋市の患者遺族で、2006年3〜7月、同機構に救済認定を申請した。こうした場合、環境省に置かれた専門家による小委員会が中皮腫かどうかの医学的判断を行うが、小委員会は4人について、医学的根拠が不十分として中皮腫と認めず、これに従い、同機構も救済認定をしなかった。4人はこれを不服として、同審査会に不服審査請求を行っていた。
 同審査会は、4人のうち2人については、レントゲン画像や臨床所見などから、中皮腫の可能性が高く救済すべきだと結論づけた。北区の女性など2人については、同機構が不認定とした後に新資料が提出されたとして、改めて医学的判定を行うよう求めた。裁決を受け、同機構は4人について認定審査をやり直すことになる。
 同審査会は裁決書で、小委員会の判定について「確定的に中皮腫と判断できる場合以外はすべて『中皮腫と判定できない』という判定になり、迅速に健康被害を救済するという法の趣旨にそぐわない事例が生じる恐れがある」などと批判した。
 裁決について環境省は「医学的な判断基準を変えるものではないが、裁決の趣旨を踏まえ改善すべき点は改善したい」としている。

 厳格な照明より漏れのない救済
 臨床現場でも診断が難しいとされる中皮腫について、公害健康被害補償不服審査会は、医学的な証明の厳密さばかりにとらわれず、隙間のない救済を目指すべきだという判断を示した。
 アスベスト新法は、労災保険で救済されないアスベストの健康被害を受けた一般住民や事業主らを対象に医療費の自己負担分などを支給し、病状が深刻な中皮腫や肺癌患者・遺族を迅速に救済するのが目的。2006年3月の施行前に死亡した人については、診断書で中皮腫との記載があれば救済対象としていた。しかし、施行後に申請した中皮腫患者は、環境省が設置した医師らで作る小委員会に対し、レントゲンや病理検査の資料などを提出し、厳格な医学判定を受けてきた。法施行後から今年7月までに中皮腫だとして救済をもとめた患者は1943人(取り下げを除く)に上るが、救済認定されたのは1348人。提出した資料の不十分さを理由に不認定とされた人も少なくないとみられる。裁決は「確定診断のための十分なデータがないことについて申請者に責任を帰すのは酷」とも指摘した。環境省は、漏れのない迅速な救済という法律の趣旨を今一度、見つめ直す必要がある。(小坂剛、木田滋夫)

シリーズ アスベスト32

08.9.4 読売新聞 3種類の石綿、71棟で確認
 
国土交通省は3日、国内では未使用とされていたトレモライトなど3種類のアスベスト(石綿)について国の施設71棟で使用が確認されたと発表した。うち15棟は飛散防止対策を終えていないため、所管する各省庁に対策を急ぐよう呼びかけている。
 今年5月末時点で、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライトの3種類の石綿の使用が確認されたのは、省庁など国の施設8万3312棟のうち、出先機関の庁舎や職員宿舎など計71棟、ただ5526棟については調査が終わっておらず、今後、さらに増える可能性もある。
 同省によると、発癌性のある石綿は計6種類で、国内で使われたのは、白、茶、青の3石綿とされていたが、昨年末以降、自治体の公共施設や民間の保育園、マンションなどでトレモライトなど3種類の使用が確認されている。
 

キャンプ場の看板 森の字に注意! 造語です!

シリーズ アスベスト31

    こぼれ日

 

 08.8.12. 読売新聞 「石綿でじん肺に」四国電力など提訴 発電所元従業員
 
四国電力西条火力発電所(愛媛県西条市)の元従業員の男性2人(いずれも同市在住)が11日、「退職後にじん肺を患ったのは、会社がアスベスト(石綿)の安全配慮義務を怠ったため」などとして、四国電力(高松市)と、子会社の四電エンジニアリング(同)を相手取り、計6050万円の損害賠償を求める訴えを高松地裁に起こした。
 訴状によると、75歳の男性は1952〜93年、79歳の男性は51〜89年に同発電所に勤務し、発電設備やボイラーの点検、補修作業などをしていた。退職後に石綿によるじん肺を発症し、労災認定を受けたとしている。四電広報部は「話し合いによる解決を務めてきたので、提訴は残念。発電所では石綿が飛散する状況はなかった」としている。

シリーズ アスベスト30

 08.8.6. 読売新聞 基準満たない男性認定 アスベスト労災 「救済拡大に道」
 
新日本製鉄(旧・八幡製鉄)の下請け会社で勤務後に中皮腫になった三重県四日市市の赤塚亘さん(73)について、北九州西労働基準監督署が、認定基準を満たしていないのに、アスベスト(石綿)との因果関係を認めて労災認定していたことが分かった。基準は「アスベストを扱う作業歴1年以上」などと定めているが、赤塚さんの就労は7カ月だった。支援団体によると、極めて珍しいケースで、「救済拡大につながる」としている。
 赤塚さんによると、1963年12月から64年6月まで、北九州市八幡東区にあった旧八幡製鉄の下請け会社に勤務。八幡製鉄の構内に派遣され、断熱材としてアスベストが使われた配管の補修作業などに携わった。2006年11月、中皮腫と診断され、翌12月に右肺摘出などの手術を受け、昨年9月、労災申請した。
 中皮腫の患者が労災と認められるには、原則として@アスベストを吸ったために肺が線維化する「石綿肺」の所見があるAアスベストを取り扱った作業歴が1年以上――のいずれかが必要。赤塚さんはどちらも満たしていないが、中皮腫の診断後に厚生労働省で協議することになっており、今年4月、因果関係が認定された。北九州西労基署は詳しい理由は明らかにしていないが、「作業実態などを総合的に考慮した」としている。支援した「新日鉄八幡アスベスト問題を考える会」(事務局・北九州市八幡西区)の野沢政治代表は「作業期間が基準以下という理由で申請をあきらめる人が多い。被害者救済に道を開く画期的な判断」と評価している。
 

夕闇せまるゴルフ場 生ビールパーティーが開かれた

シリーズ アスベスト29

  グラジオラス 白 清楚ですね

 

 08.7.29. 下野新聞 論説 とちぎ発 アスベスト対策 市や町は助成制度導入を
 
国土交通省が、都道府県を通じて実施しているアスベスト(石綿)の使用実態調査について、木造建築や一戸建てを除く民間の建物すべてを対象にする方針を決めた。総務省の勧告に従ったものだが、妥当な判断だといえよう。
 これまでは、1956年から89年に施工された延べ床面積1千平方b以上の建物について、吹き付けた石綿が露出したままの建物数や飛散防止策の実施状況などを調べていた。これを1千平方b未満の建物に広げることになり、対象が8倍近くに増える。
 県県土整備部のまとめでは、県内のこれまでの調査対象は4.568棟で、3月14日現在、4.198棟の報告があった。370棟については報告自体がない。
 露出した石綿の吹き付けがあったのは284棟。同部の指導で石綿の除去や囲い込みなどをしたのは133棟。半数以上は未対応だ。未対応のうち29棟は何らかの対応を予定しているが「指導中」が122棟ある。
 同部によると「費用がかかるため、なかなか対応できない実情がある」という。中には指導に対し「国が認めていた物を使用しただけ。違法でもないのに、なぜやらなければいけないのか」と逆に問いかける所有者もおり、対応に苦慮しているという。
 こうした所有者の言い分にも一理あり、国の責任の重さはあらためて指摘しておかなければならない。
 建材の分析や露出した石綿の除去などの費用の一部を国と市町村が助成する制度があるが、県内で導入しているのは小山市だけだ。他の市町は早急に制度を導入し、助成金を受けられるようにするべきだ。
 調査対象拡大に向けて国交省は、調査方法などを検討中だという。人員や費用の問題もあり、調査は相当な困難が予想されるが、県にはしっかりと取り組んでもらわなければならない。
 露出した石綿をみつけて除去したり覆ったりするのは、石綿対策の入口にすぎない。建物解体時の飛散防止策、除去したアスベストの不法投棄防止策など、とても万全とはいえない。こうした困難な問題をどうするのか。国や地方自治体は知恵を絞り、金もかけなければならない。
 いくら子供医療費をただにしても、その子供たちが石綿を吸って将来癌になったのでは、なんにもならない。

シリーズ アスベスト28

 08.7.24. 読売新聞 石綿訴訟で原告ら 「国、企業許せない」
 
建材用アスベスト(石綿)で癌などの健康被害を受けたとして、東京、埼玉、千葉の3都県の建設労働者や遺族ら約180人が国と建材メーカー46社に総額約66億円の損害賠償を求めた「首都圏アスベスト集団訴訟」の第1回口頭弁論が23日、東京地裁で開かれ、原告や遺族が意見陳述で「国と企業の責任を明らかにしてほしい」と述べた。
 原告団長の宮島和男さん(78)は「電気工として働き、肺癌になった。私たち被害者には時間がない。国や企業は救済に力を尽くすべきだ」と訴えた。10年前に53歳の夫を腹膜中皮腫で亡くした瀬川初江さん(65)も「日本の経済成長を支えてきた建設労働者の健康と生命を顧みずに国や企業は危険なアスベストを使わせ続けた。許すことはできない」と怒りをぶつけた。
 

    フヨウ

シリーズ アスベスト27

  二荒山の神輿関係者

 

 08.7.22 下野新聞 石綿 中小建物も調査 国交省 対象は8倍増 200万棟
 
国土交通省は21日、都道府県を通じて年2回実施しているアスベスト(石綿)の使用実態調査について、木造建築や一戸建て住宅を除く民間の建物すべてを対象にする方針を固めた。これまで調査対象は工場やビルなど大規模な建物約216万棟に限定していたが、8倍近くの約200万棟に増えることになる。
 小売店や旅館など中小規模の建物にも調査の網を広げ、石綿の飛散防止対策を進めることで、石綿による肺がん発症などの健康被害に対する国民の不安を減らす狙い。
 ただ、実務を担う都道府県などが調査人員を確保するなどの態勢を整える必要があるため、建物の建設時期や構造、用途などで優先順位を設け、早ければ来年3月の調査から段階的に対象を広げていく予定。
 国交省は、約200万棟すべてが調査できるようになる時期は未定としている。
 総務省が昨年12月、中小規模の建物も調査対象にするよう国交省に勧告したのを受けた措置。国交省の調査は学校など他省庁の所管分を除く民間の建物が対象。
 現在は、石綿が建築資材に広く使われていた1956年から89年に施工された延べ床面積1000平方メートル以上の建物について、吹き付けた石綿が露出したままの建物数や飛散防止策の実施状況などを調べている。

シリーズ アスベスト26

 08.7.19. 読売新聞 自覚症状ない中皮腫
  
建設労働者でつくる東京土建一般労働組合は18日、順天堂大の研究チームと共同実施している健康診断で、自覚症状はないがアスベスト(石綿)による中皮腫にかかっている患者1人を初めて確認したと発表した。中皮腫は発症前の診断が難しい一方、症状が出た時には手遅れとなるケースが多いため、早期発見を目的に、同労組などは2007年7月から、自覚症状がない人も対象に中皮腫の診断を実施していた。
 同労組によると、研究チームが開発した試薬を使い、今年3月までに2万2450人分の血液を調べたところ、28人に中皮腫の疑いがあり、5月にうち1人が中皮腫だと分かった。
 

お囃子、後部で常に次の用意をしている。

シリーズ アスベスト25

   各町内の神輿

 

 08.7.12 下野新聞 1万2千校で石綿未調査 本県は216校
 国内で未使用とされながら東京都中央区の保育園で見つかった「トレモライト」など3種類のアスベスト(石綿)について、使用状況を確認していない学校(幼稚園を含む)が、3月末時点で国公私立校の28%に当たる1万1981校あることが11日、文部科学省の調査で分かった。
 このうち公立の幼稚園や小中学校、特別支援学校は10291校で、都道府県別の最多は愛知県の712校、最小は山梨、鳥取両県の27校だった。他には公立の図書館や体育館などの教育施設5130か所でも未調査だった。
 トレモライトなどは、日本工業規格(JIS)に定める石綿含有率調査の対象に明記されていなかった。
 

シリーズ アスベスト24

 08.7.12 読売新聞 下請け従業員遺族住友重機を提訴「アスベスト対策不十分」
 
住友重機機械工業(東京)の神奈川県横須賀市内の造船所で働き、死亡した下請け従業員5人の遺族6人が11日、アスベスト対策が不十分だったとして、住友重機を相手取り、約2億3500万円の損害賠償請求訴訟を横浜地裁横須賀支部に起こした。住友重機を巡るアスベスト3次訴訟となり、下請け従業員による提訴は初めて。
 

女神輿も、艶やかでですねぇ〜!

シリーズ アスベスト23

 何の花? 現在調査中

 

 08.7.9 下野新聞 石綿露出 6826棟が未対応 本県は151棟 飛散の恐れ 国交省調べ
 国土交通省は8日、工場やビルなど大規模な民間建物のアスベスト(石綿)の使用実態調査を発表した。吹きつけの石綿が露出したままの建物は14832棟あり、うち46%の6826棟は飛散防止の対応がまだ取られていなかった。県内は284棟あり。うち151棟が未対応。
 今回の調査は3月現在で未対応の建物の割合は昨年9月の調査に比べ2ポイントの改善にとどまった。国交省は建物の所有者を引き続き指導するよう都道府県に要請している。
 未対応の建物が多いのは、都道府県別で大阪がトップの933棟、次いで愛知の537棟、北海道の421棟など。一番少ないのは沖縄の5棟だった。
 調査は石綿が使われていた1956年から89年に施工された延べ面積1000平方メートル以上の建物を対象に半年に一度実施。調査漏れがあるとすると総務省の勧告を受け、今回は約6000棟増え約259000棟となった。

シリーズ アスベスト22

 08.7.1 読売新聞 立体駐車場で基準160倍 千代田区で検出 国の調査対象外 
 
建築基準法で定める新築時の基準の約160倍にあたるアスベスト(石綿)が東京都千代田区内の機械式立体駐車場で検出されていたことが30日、わかった。この他14基の駐車場でも基準以上の石綿が検出されており、区は近く、同法に基づき、所有者に飛散防止策を指導する方針。
 立体駐車場は耐火材がむき出しの状態で設置されていることが多く、一般の建造物より石綿飛散の可能性が高いとみられているが、国土交通省が都道府県を通じて実施する民間建物の調査の対象外。石綿が耐火材として多用されていた1950年代半ばから80年代後半までに建てられた機械式立体駐車場は全国に28000基以上あり、専門家からは「早急な調査が必要」との声が上がっている。
 基準の160倍の石綿が検出されたのは、68年築の機械式立体駐車場(4階建て)。鉄骨の耐火被膜や機械のブレーキ部品などで採取した検体総重量の16%に、石綿の一つ「クリソタイル」が含まれていた。
 これを受け、区は区内の主な立体駐車場管理会社5社に調査を依頼。この結果、2社の計409基のうち少なくとも15基では基準の10倍以上の石綿が検出されたが、残る3社は「調査していないので対応できない」としている。
 広瀬引忠・東京女子大教授(災害・リスク心理学)は「石綿含有の既存建物に関する現行法は、解体時のリスクにしか対応しておらず、立体駐車場のように、通常の使用時でも危険性のあるケースは想定していない。まずはすべて調査を行って、最低限必要な対処をすべきだ」としている。
 

  紫陽花 一般的??

シリーズ アスベスト21

  友人のテント、まだぐっすり寝ています。

 

08.6.12. 読売新聞 事業主長期でも石綿労災
 「労働者だった期間より事業主だった期間が長い場合は労災を認めない」とする厚生労働省の通達を理由に、アスベスト(石綿)による労災が認められなかった東京都板橋区の建設業村井浩さん(61)について、労働保険審査会が池袋労働基準監督署の不認定処分を取り消し、労災を認定していたことがわかった。決定は5月20日付。
 代理人の弁護士らが11日記者会見して明らかにした。
 弁護士らによると、村井さんは1963〜80年に電気工事会社に勤務。80〜85年は日払いで賃金を受け取る「一人親方」として、その後は従業員を雇って働いている。2004年1月に石綿肺と診断されたが、労基署は「一人親方となった80年以降は事業主にあたる」と判断、労働者の期間より長いとして労災を認めなかった。しかし、同審査会は「事業主になる前に長期間アスベストを吸い込んでいた」と判断した。

シリーズ アスベスト20

08.6.5. 読売新聞 アスベスト使用の工場周辺 住民18%「胸膜プラーク」
 
アスベストを扱っていた工場周辺住民のうち、工場で働いた経験がないなど、明確な「曝露」歴のない約800人について、環境省が昨年度の健康調査結果を分析したところ、約18%の145人にアスベストを吸った人に特有の「胸膜プラーク」が確認された。同省が4日、専門家による検討会に調査結果を報告した。主に一般大気を通して周辺住民に被害が広がった可能性を示すもので、同省では「不安を抱える住民の健康相談の在り方を考えていきたい」などとしている。
 調査は、アスベストを使用していた建材メーカーなどの工場があった横浜市、岐阜県羽島市、奈良県、大阪府、兵庫県尼崎市、佐賀県鳥栖市の6地域で同省と自治体が実施。「過去にアスベストを吸い込んだ可能性がある」として調査に参加を希望した住民計1814人を対象にした。
 このうち、本人や家族がアスベスト関連工場で働いた経験がないなど、アスベストを吸い込んだとすれば一般大気からと推定される804人を分析。この結果、胸膜プラークの所見が出たのは羽島市41人、奈良県37人、尼崎市32人、大阪府20人、横浜市12人、鳥栖市3人の計145人。アスベストに関連する可能性のある所見が見つかったのは約6割の509人に上った。
 同省は2006年度に同様の調査を実施し、この時は、尼崎市で40人中11人、大阪府で67人中16人、鳥栖市で37人中2人の計29人で胸膜プラークが見つかっている。同省では今年度も調査を続け、周辺住民の健康管理体制の在り方についても検討していく方針。
 

  角度を変えても新緑

シリーズ アスベスト19

  心の森キャンプ場前の新緑

 

08.5.17下野新聞 石綿被害で集団提訴 国と46社に66億円請求 東京地裁に建設労働者ら
 肺癌などの原因になるアスベスト(石綿)を建設現場で吸い込み、健康被害を受けたのは、危険性を知りながら対策を取らなかった行政の怠慢が原因として、東京、千葉、埼玉の三都県の建設労働者と遺族178人が16日、国と建材メーカー46社に総額約66億円の損害賠償を求め東京地裁に提訴した。
 弁護団によると、石綿被害をめぐる建設労働者の集団提訴は初めてで「国やメーカーの責任を明確にし、被害者の全面救済を目指す」としている。
 提訴後、原告団長の宮島和男さん(78)は記者会見で「勝訴するまで頑張っていきたい」と決意を語った。
 被告は、ニチアス(東京)やクボタ(大阪)など石綿を含む建材を長期にわたり大量製造した主要メーカー。
 実際の健康被害を受けたのは172人で1人当たり3850万円を請求。いずれも建設作業中に石綿を吸い込んで肺癌や中皮腫などになった大工や配管工。既に半数近くが死亡した。
 訴えによると、国は耐火性などに優れ、安価な石綿の使用を推進。発癌性などの危険が指摘された後も、厚生労働省や国土交通省は、製造や使用の禁止など十分な対策を取らなかった。メーカーも危険性を知りながら、製造を続けた。6月には神奈川県の建設労働者約40人についても、横浜地裁に集団訴訟が起こされる予定。
 石綿による健康被害の問題では、大阪府南部の紡績工場などの元従業員や周辺住民らが2006年、国家賠償を求め、大阪地裁へ集団提訴した。

シリーズ アスベスト18

 08.5.16. 読売新聞 健康被害でも因果関係認めず 周辺住民も訴訟共闘″
 介護ヘルパーになろうと勉強中だった神奈川県内の女性(57)が、資格取得のための健康診断で異常が見つかり、病院で悪性中皮腫と診断されたのは2003年8月のことだった。突然の宣告に驚愕した。アスベストとの接点はないかと医師に問われたが、心当たりがない。病状は深刻で、入院して抗癌剤治療が始まった。
 疑問は06年春に解けた。アスベスト問題に取り組む団体からの連絡で、東京・大田区にあったアスベスト関連工場の周辺住民らに中皮腫などの健康被害が出ていることを知った。女性も25歳まで同区に住み、子供のころ、工場近くの友人の家によく遊びに行った。
 同年秋、女性は石綿健康被害救済法適用を受け、入院費などが補助されるようになった。しかし、工場従業員と違って労災認定の対象でないため休業補償はなく、工場との因果関係も不明のままだ。
 16日に東京地裁に提訴される集団訴訟の原告約170人は労災認定を受け、被害原因が明確になっている労働者と遺族が中心。周辺住民は含まれていない。
 ヘルパーへの夢をあきらめ、闘病を続ける女性は「知らぬ間に被害を受けた住民は多いはず。国や企業は訴訟を機に、住民の問題も直視すべきだ」と話した。
            ※
 05年秋、45歳の妻を中皮腫で亡くした兵庫県尼崎市の隅本義勝さん(54)は昨年、国を相手に損害賠償訴訟を神戸地裁に起こした。隅本さんの妻は、両親が同市内のアスベスト関連企業の工場に勤めていたため、幼いころから工場そばで暮し、工場敷地にもよく出入りしたという。
 妻が亡くなる直前の05年6月、大手機械メーカー「クボタ」が従業員や周辺住民の健康被害を公表し、アスベスト禍が社会問題化した。しかし、妻の両親が勤めていた会社はすでになく、親会社だった企業から見舞金として200万円が支払われただけだった。
 「お金の問題ではない。責任を認めてもらわないと、再発防止につながらない」と隅本さん。しかし、多額の救済金を払っているクボタでさえ、周辺住民の被害は「道義的責任」を認めるのみ。国も大気中へのアスベスト飛散と発症の因果関係は認めていない。
            ※
 日本石綿協会によると、建物解体によるアスベスト廃棄量は19年にピークを迎える。健康被害には数10年の潜伏期間があり、これから患者がふえるのも必至だ。
 宮本憲一・大阪市立大名誉教授(環境経済学)は「建設現場での行政の対応遅れの責任を明確にすれば、今後の解体の安全につながる。今訴訟は労働・環境両面で非常に重要」と語る。原告らは訴訟と並行し、解体時の安全対策や診療体制の整備も求めていく。小野寺利孝弁護団長は「原告だけが救われればいいという問題ではない。周辺住民も含め、被害根絶のための闘いをしたい」と話した。 (この連載は木下敦子が担当しました)
 

  モミの木の上部が折れた

シリーズ アスベスト17

  塩原温泉川沿いの露天風呂

 

08.5.15. 読売新聞 72年「ILO発癌性認定」遅すぎた規制に憤り
 「なぜ、国は『あの時』に規制しなかったのか」東京都江戸川区に住む森川順子さん(56)は声を震わせた。
 夫の作之助が、悪性中皮腫のため61歳でなくなったのは昨年3月。秋田から1961年に15歳で上京した作之助さん。75年まで大工仕事で建設現場を歩いた後、建設労働者らで作る労働組合の職員になった。
 現場を離れて30年。なのに、定年直前にアスベストによる中皮腫と診断され、半年で命を落とした。原因は大工のころに浴びたアスベストしかあり得ない。そう考える森川さんがこだわる「あの時」とは、アスベストの発癌性が国際的に警告された72年のことだ。
             ※
 アスベストの危険性は古くから言われていた。戦前、旧内務省は大阪・泉南地域の工場労働者を調べ、40年には有害性を認めて予防・治療対策の必要性を提言。米国では64年に医学者らがアスベストの健康被害を指摘し、企業に対する損害賠償訴訟が次々と起きた。
 そして72年。国際労働機関(ILO)と世界保健機関(WHO)がアスベストの発癌性を明確に認めた。この指摘を受け、当時の建設省は翌73年、国の施設にアスベストを吹付けないことを決めた。だが、民間の建物については87年まで耐火対策としてアスベストの吹付けを認め、お墨付き″を与え続けた。
 アスベスト問題に詳しい村山武彦・早大教授(リスク管理論)は「早い段階で国が危険を察知していたのは明らか。民間に対しても情報発信や注意喚起を行うべきだった」と指摘する。
 旧労働省は75年にアスベストの吹き付け作業を原則禁止した。しかし、特殊マスク装着などの条件付きでの作業は認め、アスベスト含有材の使用は規制しなかった。これについて、厚生労働省は「当時は管理しながら使うのが国際的な流れ」とするが、発病した労働者からは「現場でマスクなどの防御対策はなかった」との証言が相次いでいる。
 森川さん憤る。「危険を知りながら放置した国の姿勢は許せない。早く動いていれば、夫は死なずに済んだかもしれない」
             ※
 80年代に入り、欧州でアスベストを使用禁止にする国が増えた。日本では95年に青石綿など毒性の強いアスベストの使用が禁止されたものの、全面禁止は2006年になってからだ。
 16日に東京地裁に提訴する集団訴訟の原告約170人のうち、半数近くが既に死亡している。原告側は「遅くとも72年に国は規制すべきだった」と主張する方針。しかし国は、05年に行ったアスベスト問題の検証の中で、72年時点で危険を認識していたことは認めながらも、欧州に比べ日本で健康被害の例が少なかったことなどを理由に、「行政の不作為はなかった」と責任を否定している。
 03年に夫を肺癌で亡くした東京都目黒区の浅野初枝さん(70)は、「今後どんどん患者が増え、アスベストを使った建物の解体も増える。国や企業は責任を認め、今こそきちんと対応してほしい」と話した。

シリーズ アスベスト16

08.5.14. 読売新聞 「国・企業は危険放置」 経済成長の代償 消えた命
  建材用のアスベストで癌などの健康被害を受けたとする首都圏の建設労働者ら約170人が16日、国や建材メーカーに対し、一人当たり3500万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こす。高度成長期からバブル期にかけて水面下で広がり、2039年までの死者数が10万人との予測もあるアスベスト禍。被害を防げなかった国や企業の責任が問われる。
            ※
 
日本初の超高層ビル「霞が関ビル」が東京にそびえ立った1968年4月。内装職人だった男性(71)は高ぶる気持ちを抑えられなかった。地上36階、高さ147b。「日本一のビル工事に参加できた」。右肩上がりの経済を象徴する威容が誇らしかった。
 建設2社が共同施工した同ビルは、耐火性を高めるため、柱や梁にアスベストが使われた。多くの下請け、孫請けが出入りし、男性もアスベスト含有建材をカットしては、壁や天井にはり付けた。
 床に粉塵が雪のように降り積もり、動く度にキラキラと光って舞い上がった。ガーゼだけのマスクや手ぬぐいを口に当て、懸命に働いていた。「今思えば、アスベストに埋もれて働いていた。それが怖いものだなんて、夢にも思わなかった」と男性は振り返る。
 独立して小さな会社を設立した後も、全国の現場で働いていた。
 体に異変が起きたのは2003年秋。夜中に血痰が出て、大学病院で肺癌と診断された。04年1月、専門病院で医師に「アスベストだね」と言われた。レントゲン写真の肺は白く濁り、長年アスベストを吸った人に特有の、胸膜が盛り上がる症状が写っていた。
 肺癌の診断から2年近く過ぎた05年6月、大手機械メーカー「クボタ」が、兵庫県尼崎市のアスベスト関連工場の従業員や周辺住民に健康被害が出ていると公表した時、男性は「やっぱり」と思い、暗然とした。長年渡り歩いた現場で同じようにアスベストを吸い、病気の進行に気付いていない仲間がいるのではと、ずっと気になっていた。
 東京都江戸川区の石山運蔵さん(71)もニュースを聞き、驚いた。解体業に40年以上携わり、01年に肺癌と診断された。「国や企業は危険を放置し、私達の命と引き換えに経済成長や利益を追い求めた。責任を追及すべきだ」。
 男性も石山さんも抗癌剤治療や手術を受け、闘病生活を続ける。息切れやだるさがひどく、家で横になる日も多い。アスベスト被害で労災認定を受けた労働者やその遺族が集団訴訟の準備を始めたのは昨年夏。2人とも迷わず原告に加わった。
 男性は、霞が関ビルの完成時に配られた記念メダルを今も大切に持っている。
  「この仕事で身を立て、家族を養い、生きてこられたことに心から感謝している。でも同じ被害に遭った仲間や若い者のためにも、黙るわけにはいかない」。
 男性は声を絞り出した。
 

 シャクヤク 珍しい! 赤が白、真中がピンクの咲き分け!

シリーズ アスベスト15

   おかめ桜 珍しい品種!

 

08.3.29 読売新聞 アスベスト被害 8事業所名公表
  アスベスト(石綿)による健康被害問題で、厚生労働省は28日、肺がんや中皮腫で労災認定を受けた従業員が勤務していた事業所を発表し、県内では8事業所の名称などが公表された。
 事業所での勤務経験者や周辺住民はアスベストによる健康被害を受けている可能性もあり、栃木労働局や各保健所などが相談を受け付ける。公表されたのは、2005〜06年度に労災認定を受けた従業員が勤務していた8事業所。これらの事業所では、計8人がアスベストが原因の肺がんや中皮腫を患い、労災認定を受けている。
 厚生労働省では、29、30日の両日、電話による相談窓口を設ける。両日とも午前10時〜午後5時までで、問い合わせは(03−3502−6750・0876.6748)。31日以降は栃木労働局(028−634−9118)へ。また、健康相談については、県内各広域健康福祉センターなどでも受け付けている。
 無料相談受付
  県社会保険労務士会は、アスベストによる健康被害者や遺族の補償請求に関する取組を支援しようと、県社会保険労務士会館(宇都宮市鶴田町)内にある「アスベスト労働災害対策室」が無料相談を受け付けている。午前9時〜午後4時までで、土日、祝日は除く。問い合わせは同労務士会(028−647−2028)へ。

シリーズ アスベスト14

 08.3.17 読売新聞 クボタ、不認定者に救済金 石綿被害
  大手機械メーカー「クボタ」旧神崎工場(兵庫県尼崎市)周辺のアスベスト(石綿)被害をめぐり、アスベスト関連病の中皮腫で死亡しながら、死後の申請であることを理由に石綿健康被害救済法に基づく救済金給付が認められなかった女性(当時67歳)の遺族に対し、クボタが同社独自の救済金支払いを決めたことがわかった。クボタが同法で不認定となったケースに救済金を支払うのは初めてという。
 大阪府内に住む遺族と、アスベスト被害者らの支援団体「尼崎労働者安全衛生センター」が16日、記者会見して明らかにした。女性は1960年代の約5年間、同工場から約1.5`離れた場所に住み、2006年5月に死亡。死因は「がん性胸膜炎」とされたが、解剖の結果、中皮腫と判明。同10月、遺族が同法に基づく救済金給付を環境再生保全機構に申請した。
 しかし、同法は生存中の申請を原則としており、07年2月、不支給の決定が出た。このため、遺族は同センターを通じてクボタと交渉。同社は「工場が原因である可能性は否定できない」などとして今月、救済金を支払う意向を伝えてきたという。
 

 ケヤキの芽がやっと!

シリーズ アスベスト13

  プラムの白い花    

 

08.3.3. 読売新聞 アスベスト訴訟 200人原告団結成 
  アスベスト(石綿)対策が不十分だったために健康被害を受けたとして、国を相手とって損害賠償訴訟を起こす準備を進めている首都圏の建設労働者らが2日、都内で原告団結成総会を開いた。
 建設労働者と遺族ら約200人は「国はアスベストの危険性を知っていたのに、十分に周知しなかった」と主張し、一人当たり慰謝料など計3850万円の損害賠償を求める訴訟を5月に東京地裁、6月に横浜地裁に起こす。アスベスト建材を製造した10数社も同時に訴える予定だ。
 総会には、原告や弁護士など計約520人が参加。大工だった夫を5年前、アスベストによる中皮腫で亡くした埼玉県の大坂春子さん(64)は「夫の死を無駄にしないためにも、国と建材メーカーに謝罪を求め、新たな被害者を出さないよう訴えていきたい」と訴えた。

シリーズ アスベスト12

 08.2.8. 読売新聞 石綿6種すべて検査 国が通達 未使用とされた3種も
 国内未使用とされたトレモライトなど3種類のアスベスト(石綿)が保育園などで相次いで検出されているのを受け、厚生労働省は、建物の解体・改修工事前の調査で分析対象とするよう検査会社や建設会社などに通達した。アスベストは発癌性が強く、解体工事などで飛散すれば、健康被害を起こす危険性がある。しかし、厚生労働省が示していた分析方法ではトレモライトなどは分析できなかったため、多くの検査機関は分析対象としていなかった。
 アスベストは6種類あり、いずれも発癌性は強く2006年にすべての製造、使用が禁止された。国内では白、茶、青石綿が大量に使用されており、トレモライトなど3種類も昨年暮れ以降、公共施設と民間建物の計11カ所で検出されていたことがわかった。
 アスベストを使った建物を解体する際には、飛散して作業員や周辺住民に健康被害の出る恐れがあり、覆いをするなどの対策が必要とされている。このため使用した可能性のある建物については、国が解体前の調査を義務付けている。
 しかし、厚生労働省が1996年と05年に示した通達は、白、茶、青石綿の分析方法しか示されていなかった。06年に日本工業規格(JIS)が6種類の分析が可能な方法を示したが、厚生労働省は直後に同省の分析方法についても「JISと同等の精度がある」と通達し、分析方法を改める必要性を示さなかった。

 

宇都宮文化会館
労働保険事務組合研修会

シリーズ アスベスト11

 この林道は通行禁止

 

08.1.31. 読売新聞 無警戒石綿 民間建物にも 濃度最大60%、強い発癌性
 国内で使われていないとされ、アスベスト(石綿)の中でも発癌性が強いトレモライトが、私立保育園やマンションなど都内3カ所の民間の建物から、最高60%という高濃度で検出されていたことが分かった。公共施設での検出例に続くもので、建材として広く使われていた可能性が高まった。建物の解体・改修時には、アスベストの有無を調べることになっているが、検査会社の多くはトレモライトを分析対象としていない。見逃されたまま建物が使われ続けたり、飛散防止策が取られずに解体されたりして健康被害を引き起こす恐れがあり、検査体制の見直しが急がれる。
 検出されたトレモライトは、2006年12月に私立保育園のボイラー室天井から60%、07年5月にマンションのポンプ室天井から20%、同年8月に事務所ビルの天井と梁から7〜10%、いずれも飛散する恐れの高い吹付け材で、解体・内装工事前の調査で見つけた。
 国内では、6種類あるアスベストのうち、トレモライトなど3種類は使用されていないとされていた。このため、解体前の調査などで分析対象としない検査会社は多いが、今回は、検査した外資系の2社が6種類すべてを対象とする米国の基準で調べたため見つかった。3例では、いずれもほかのアスベストは検出されず、単独で使用されており、6種類の検査をしないと、見逃されて対策も取られなかったとみられる。

シリーズ アスベスト]

 08.1.5. 読売新聞 無警戒の石綿3種検出 保育園など 公共8施設で
  国内で使われていないとされていたトレモライトなど3種類のアスベスト(石綿)が東京の保育園など8カ所の公共施設で検出されていたことが分かった。各自治体は2005、06年度に、学校などを対象にアスベストの一斉調査をしたが、読売新聞の調べでは、都道府県や政令市などの75%がこの3種類については調査していなかった。発癌性が指摘される6種類のアスベストのうち3種類が、無警戒のまま放置されている恐れもあり、今後、公共施設の再調査や検査態勢の見直しを迫られそうだ。
 アスベストは断熱性、防音性に優れ、1960〜70年代に建材などに使われたが、06年に製造・使用が全面禁止された。国内では、主なアスベスト建材メーカーが、6種類のうち、白石綿、茶石綿、青石綿以外は使っていないとしており、これ以外のアスベストはないとされていた。
 しかし、07年3月までの自治体の調査で、都内3区と横浜、千葉、新潟の3市でトレモライト、アンソフィライト、アクチノライトの3種類のアスベストが見つかった。東京都中央区の区立保育園(07年12月に移転)では、トレモライトが天井の吹付け材から53%の高濃度で検出された。
 国は05年度、兵庫県尼崎市で「クボタ」旧神崎工場の周辺住民に健康被害が発覚した問題を受け、各自治体に公共施設のアスベスト使用実態調査を依頼した。
 国は全6種類の検査を想定していたが、調査の依頼書には種類が明記されておらず、分析の手順を示した日本工業規格(JIS)でも、検査対象は「主に白、茶、青」とされており、多くの自治体は白、茶、青だけを調査した。読売新聞が都道府県と政令市、県庁所在市、特別区の120自治体に聞いたところ、教育施設は91自治体、その他の施設は89自治体が3種類しか検査していなかった。
 東洋大の神山宣彦教授(労働衛生工学)は「国内では3種類しか使われていないというのが業界や学界での常識だった。だが、高濃度で見つかった例がある以上、使用量などの再調査が必要だ」と話す。
 JISは今春にも、全6種類を検査対象と明記するよう改訂される見込みだが、自治体に調査を指示した文部科学省と総務省は「今後の状況を見て対応を考えたい」としている。

 アスベスト
 世界保健機関(WHO)などで、白石綿、茶石綿、青石綿、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライトの6種類をアスベストと定義している。発癌性があり、アメリカでの標準的な分析方法では、全種類が検査対象とされている。
 

地元両宮神社新年の打ち上げ花火

シリーズ アスベスト\

 宇都宮市街地 東北新幹線から

 

07.10.29
医者だからこそ聞ける名医の極意 静かな爆弾アスベストの脅威
     工藤翔二 教授(日本医科大学附属病院・内科)
     聞き手 梅谷 薫(千葉西総合病院消化器科部長)
WILL 2006 5月号より抜粋
 「名医」とは「良医」とは、いったいどのような医者なのか。
 現役の臨床医が、医療の専門家としての目を通じて、名医と呼ばれる医師たちのもとを訪れ、彼らの医療に対する考え方、その人となりや魅力を伝える。
 第5回は昨年来大きな問題となっているアスベストの呼吸器障害について、日本医科大学附属病院・内科教授の工藤翔二先生に聞く。
 梅谷 今月は先生のご専門である呼吸器の話、特に昨年来注目されているアスベストについて伺います。
 アスベストの肺疾患と言うと、まず「石綿肺」と呼ばれてきた「アスベスト肺」の問題があります。肺にアスベストの細かい繊維がささっておきる肺の障害ですね。
 それから、30〜40年経って発生してくる「悪性中皮腫」。昨年来問題になっているのはこれです。
 そして「肺癌」の問題がある。肺癌のどれくらいがアスベストによるものかという議論があると思います。
 工藤 アスベストが呼吸器に対して影響を及ぼすということは、随分古くから知られていました。
 ここに1938年刊行の英語の教科書があります。「珪肺と石綿肺」というタイトルで、オックスフォード大学より出版されています。この時代すでにアスベスト肺の立派な研究がされているんですね。中皮腫については書かれていませんが、肺癌との関係はすでに知られていた。これを見るとアスベスト研究には古い歴史があることが分かります。
 梅谷 日本でも江戸時代の平賀源内の研究が有名なように、かなり古くから使われてきた素材ですね。
 工藤 わが国でも戦後の工業化が進む中で、様々な産業分野で非常に重要な材料として石綿が輸入されて使われてきました。70年代から80年代にかけて大量に輸入され、関西を中心に全国でさかんに使われた。
 私も80年代、ニチアスの王寺工場に健診に行ったことがあります。あそこは奈良県立医大の宝来善次教授が一生懸命にアスベスト肺の研究をされていた。その後、私の東大第三内科時代の師匠である三上理一郎先生が研究を続けられた。私もそのお手伝いをしました。

 そして、患者さんの就業年数とレントゲン異常の発見率にきれいな相関がある、つまり就業年数が長くなればなるほど異常が出てくるということが分かりました。
 もう一つ、我々が気付いた重大なことは、レントゲンより聴診のほうが敏感だということです。息をすると「バリバリッ」という音が背中でするんですよ。そういう音のでる率が、これも就業年数に比例して高くなる。
 梅谷 地道な疫学研究からそういう発見がなされていった時期ですね。
 工藤 早期発見をどうするかということは臨床の研究として、特に一生懸命行われた。例えばここにあるアスベストに関する医療の教科書である「石綿肺」は、1983年に出ています。これは三上先生の編集で、中央労働災害防止協会が出した本です。労働衛生課長の推薦の言葉が出ている。当然、悪性中皮腫についても書かれています。
 このように呼吸器の医者にとって、石綿が呼吸器系に及ぼす危険性はずいぶん古くから分かっていたことなんです。ただ当時の状況からすると、臨床医や研究者がいくら問題提起しても、あるいは厚生省や労働省がいくら取り上げても、産業界を動かすまではいかなかった。産業は通産省の管轄ですからね。国策を動かすところまではいかなかったんです。

 なぜ問題にならなかったか
 梅谷 他の公害との比較ではどうでしょう。例えば水俣病では原田正純先生と熊本大学のグループの、また薬害スモンでは東大の椿忠雄先生、豊倉康夫先生たちの研究が大きな役割を果たしました。
 アスベスト問題では不思議なのは、以前から危険性かよく分かっていながら、そういう大きな動きにならなかったことです。
 やはり当時の産業界の要請もあってアスベスト肺程度のレベルではそれほど問題にされず、最近になって中皮腫の死亡例が多発したことでようやく大問題になったと考えていいんでしょうか?
 工藤 多分そういうことでしょうね。当時の労働省の課長さんが通産省の係長から怒鳴られたという話を聞きました。その結果、今になってとんでもない国費を使う羽目になった。
 アスベストの呼吸器への影響について我々は以前から注目していました。一つは肺の繊維化で「アスベスト肺」と呼ばれる。それから「アスベスト胸水」といって、両方の胸膜に水がたまることがある。なかなかコントロールが厄介です。
 その上で、癌化はものすごく時間が経ってから出てくる。中皮腫は発生するのに40年かかると言われており、今まさに「中皮腫元年」とでもいうべき状態です。
 

モノレールから品川区

 モノレールから タンカー?

 

 梅谷 高度成長期で輸入の増え始める1965(昭和40)年から数えて約40年。日本の産業構造と深く結びついてきたアスベストは、使うなといっても難しい状態であった…。
 工藤 アスベストに限らず、防具をすることを推奨しても、現場に行くとなかなか受け入れてくれない。例えば粉砕作業では、作業の度にマスクしなさいと言っても現場では守られなかったりする。「こんなのつけてられない」ってね。実際難しいです。
 例えばアスベストじゃないですけれど、昔からある「珪肺」。トンネル工事ですね。これは以前に比べてはるかに状況が良くなっています。例えば掘削をするときに水をかけながらやる。削り屑が前へ飛んでこないように、後で吸い込むようにしている。だから珪肺の新規の発生は激減した。アスベストはこうした技術的問題のほかに、きちんとした代替品ができるかという問題もありました。
 梅谷 アスベストは全国で長期かつ大量に使われたため、自分もそうなるのではないかという不安をもつ方は多い。医療機関での診断はどのようにおこなわれますか?
 工藤 胸のレントゲン写真を撮るのが最初の入り口。ただ実際にアスベストの障害をみつけるためには、胸のCTスキャンが必要です。
 アスベストの障害として外側にある胸膜の凹凸が出てきます。その後「胸膜班(プロイラル・プラーク)」という、胸膜の肥厚、さらに石灰化が起こってくる。肋骨の裏側の胸膜が硬くなって石灰がついてくるわけですね。これはこの病気に特徴的なので、それが見つかればアスベストによる障害といっていい。普通のレントゲン写真で分かることもあるけれど、CTを撮ればもっとよく分かります。
 もう一つ特徴的なものに肺の繊維化があります。いわゆる「アスベスト肺」。アスベストによる繊維化と通常の「肺線維症」といわれている病気との区別は、実は難しいんです。しかし高分解能のCTスキャンの技術も進んでいますので、それで繊維化肺があり、アスベスト曝露歴があればアスベスト肺と考えてほぼ間違いがない。
 さらに気管支ファイバースコープを使って調べる方法もあります。肺の中に生理食塩水を少し流し込んで洗い、それを吸引して、その中に含まれる細胞を調べます。それから生検といって、気管支ファイバーの2_位のチャンネルに小さな鉗子を入れて肺の組織を採る。
 肺組織を調べてそこに「アスベストボディ(=含鉄小体)」があれば有力な証拠になる。これは吸入したアスベストのまわりを鉄がコーティングをした格好で、それで「含鉄」と言う。結局は曝露があって、胸膜班がある、あるいは含鉄小体が組織あるいは気管支肺胞洗浄で出てくる。これで診断をつけるしかないですね。

 梅谷 含鉄小体は、通常の痰の検査でも分かりますか?
 工藤 通常の痰でも出ることがあります。ただこの含鉄小体というのは一般の方の検査でも結構みつかりますので判断が難しいところです。
 
 知らぬ間にアスベストを
 梅谷 これだけアスベストが公共の建物や家の中、学校でも使われた結果、日本人で全くアスベストを吸ったことの無い人はいないでしょうし。
 工藤 労働環境の場合はわりとやりやすい。アスベストの曝露歴が分かっていますから。その場合は胸膜班や含鉄小体があれば、アスベスト肺という診断がつけることができる。
 問題は曝露歴の分らない方です。本人に記憶がない場合ですね。それから普通の環境にいる一般市民の方。「私は大丈夫か?」と聞かれても、なかなか判断が難しいんです。
 例えば尼崎市のクボタの工場周辺では、工場からの距離に反比例して患者が出るといわれます。しかし、どこで線が引けるかと言ったとき、例えば100メートルで線を引いて、101メートルだとダメだという判断はできないわけです。それに人間は行ったり来たり動いているわけですから、個人曝露量というのは、必ずしも地理的曝露とイコールではない。簡単に線を引くことはできないんです。
 誰も知らないうちにアスベストを吸っているかもしれない。そうするとやはり胸膜班とか、痰から含鉄小体がでるとかいうようなことで線を引かなければならないわけです。
 医学的証明と行政的な線引きはイコールではないですね。行政的というのは予算の多少にどうしてもしばられます。それから公平性も大事。現実にどこまでやれるかということはありますね。
 梅谷 悪性中皮腫であればかなりの確率でアスベストが原因だろうということになり、基本的に補償を行うということになりますね。
 工藤 医学的には80%ぐらいは証明されます。アスベストの曝露歴が分かりますからね。ただ一般の医師の側の問題点は何かというと、アスベストによる呼吸器障害というものを十分知らないということが一つ。それ以前に、アスベストはどういう所に使われてきたのかを知らない。どういう職業の方が気をつけるべきか、アスベスト肺を疑うべきか、そこを多くの医師は知らないんですね。
 呼吸器の病気はそれぞれの職業に深く関係しています。ところが医師は現場のことをよく知らない。例えばグラインダーを使って作業する時に、どういう格好で仕事をしているか、フライス盤とボール盤はどう違うかとか。あるいはパイプカバー、これは管を被覆する作業で一番アスベストを吸っているはずなんです。そういう現場の作業工程が分かっていない。
 

千歳空港、ANA便

飛行直前の整備? JAL便

 

 また例えば造船所。石綿肺が一番発生しているのが、アメリカではニューイングランド地方、日本では横須賀が有名です。船の隔壁には全部アスベストが入っている。ボイラーの回りにも入っている。船はアスベストの塊と言っていい。船を造ったり、解体したりする過程で大量のアスベストがでる。
 あとは車のブレーキ、クラッチ部分ですね。ああいう接触の部分は高熱が出ますから使うわけです。それから屋根瓦のスレート、あの中にアスベストが入っていたんです。そういう生活の周りの材料や職業の工程、それを知ってないと、アスベストをどこで吸い込んでいるか分らない。
 編集部 その他にもヘアードライヤーとかベビーパウダーとか、身近な商品にも使われていたと聞きます。
 工藤 その通りです。ところでアスベストの化学構造そのものにどれだけ発癌性があるかについては、まだまだ議論のあるところです。
 たとえば、珪酸、あるいはシリカと呼ばれるもののなかで、石英のような結晶構造を持つものの発癌性については、国際癌研究機関(IARC)でも認めています。ところが地球上で一番多い元素はシリカなんですよ。要するに岩石そのものですからね。水道のもとになる地下水はシリカの中を通ってくる。水道水を加湿器で霧にして飛ばすと、白い粉がくっついてくる。あの白い粉がシリカです。水道水の中に溶けていたものです。
 それからシリカゲルは乾燥材として食品と一緒に梱包されている。しかし、こうした非結晶構造のシリカには発癌性や珪肺を起こすことは認めていない。だから、シリカの全てに発癌性があるといわれると大変困るわけです。子供が砂場で遊ぶのは危険だなんて言えないでしょう。
 アスベストについて言えば、例えば手で触ってしまった。さあ、すぐ手を洗うべきかというと、そういう話ではないんです。アスベストという繊維状の構造物が肺に入ることが問題なんです。
 ただそれがなぜ中皮腫につながるような反応を起こすかというと、これを完全に実証した論文はないと思いますね。中皮腫が出るのに40年かかってしまう。研究者が先に死んでしまいますからね。本当に発癌物質であれば40年もかからない。もっと早く起きていいわけです。ですから物理的な刺激がずっと続いていることが問題だという考え方もあります。

 因果関係が難しい
 梅谷 中皮腫であればアスベストから来ている可能性は非常に高いけれど、普通の肺癌の場合は因果関係がなかなか証明できないですね。
 工藤 難しいですね。どうしてかと言うと、肺癌は様々な原因で起こるわけです。ところがその因子が多すぎる。タバコだけでも起こる訳でしょう?ですから、肺癌も生活習慣病だと考えています。要するに「喫煙関連性疾患」。もちろん喫煙で全て説明がつくわけではありません。喫煙があまり関係してない肺癌も増えていますから。アスベストが肺癌因子の一つであることは間違いないですね。
 最近、日本人の死因に関わるリスクをまとめた研究があります。喫煙によって肺癌死するリスクと、アスベストによるリスクとを比較すると、比較にならないくらい喫煙の方が高い。アスベストに比べてタバコがいかに危険なものか分かります。もちろんこれは疫学的な話、公衆衛生的な話であって、個人で「私の肺癌はアスベストの影響でしょうか?」と聞かれても答えに窮してしまう。
 梅谷 たとえアスベストが検出されたとしても、肺癌の原因がアスベストかどうか断定できない…。
 工藤 ただベースにアスベスト肺の所見などがあれば、関連性が高いと考えていいと思います。
 梅谷 さらにその人がタバコを吸っていた場合は、どちらが原因かさらに分かりにくい訳ですね?
 工藤 個人レベルではそうですね。ただ数年前に「じん肺法」を改定して、じん肺に伴う肺癌を、じん肺合併症として認めるか認めないか論議したとき、厚労省はそれを承認しました。じん肺の存在というのは、発癌性を高める独立したリスクファクター(危険因子)だと認めたわけです。タバコを吸うと、相乗効果でより発癌の率が高くなるんです。
 つまり、アスベストによる肺の繊維化そのものが、すでに発癌の発生補助因子なんです。癌というものは、突然起こるわけではない。肺癌も大腸癌と同じように、何段階かの遺伝子の変異を通して発生してきます。繊維化病巣ができると、そこに遺伝子の異常が起こっている。いわゆる「前癌状態」になることが最近の研究で分かっているんです。
 梅谷 これまでアスベストを吸った可能性がある方たちは、かなり心配しています。実際どうすればよいのでしょうか?
 工藤 心配ならやはり呼吸器科のある医療機関を受診されるといいと思います。全国に労災病院がありますね、労災病院は全国ネットワークで、石綿に対する対応をしっかり取っています。それから日本呼吸器学会の研修指定病院がある。呼吸器科の専門病院ですね。これは日本呼吸器学会のホームページ(http://www.jrs.or.jp)を見ると分かります。ただ、そうむやみに心配することはないと思いますよ。
 

 札幌市街地の朝日

白樺林 いずれも100年を超えている

 

 常識を覆した治療法
 梅谷 話は変わりますが、工藤先生と言えば、「びまん性汎細気管支炎(DPB)に対するエリスロマイシン少量長期療法」の提唱者として大変有名です。これまでの治療法の常識をひっくり返した、とてもユニークな研究なのですが、まず「びまん性汎細気管支炎」とはどういうものか教えて下さい。
 工藤 最初にこれが独立した呼吸器の病気として提唱されたのは1969年のことです。さらに初めて英語の論文に取り上げられたのは1983年になってからで、日本で提唱して14年たっていました。なぜこんなにかかったのかと思うんですが、要するに白人には殆どない病気だったからです。
 編集部 人種的な問題ですか?
 工藤 はい。90年代の調査では、日本で大体10.000人超の患者さんがいました。東アジア各国にも沢山いることが分かった。しかし欧米ではきわめて少ない。いてもアジア系の人だったり。
 人の肺では、気管支の一番奥の所。肺胞という袋につながる所に、呼吸細気管支という領域があります。その領域に慢性の炎症が起こるのが特徴です。ところでこの病気の方は、たいてい蓄膿症ももっている。鼻の奥の両脇(副鼻腔)に膿がたまるのが蓄膿症。そして気管支の奥から凄い量の痰が出る。多い人では一日牛乳ビン1,2本分。つまり鼻から気管支の一番奥まで、全部がやられる病気なんです。当時の死亡率かなり高かった。
 梅谷 当時のグラフを見ますと、半数の方が7,8年で亡くなっている。
 工藤 インフルエンザ菌が沢山出ているものですから、ペニシリン系の薬で一生懸命その菌を叩く。すると今度は緑膿菌という治りにくい菌が出てくるんです。大体半数の方が8年ほどで亡くなっていました。
 しかも働き盛りの40、50歳代に多い。壮年齢層の方たちの症状がものすごく辛い。最後は痰が出せなくなる。咳で出しても出しても湧いてくる。自分で出せない人は喉に穴を空けて吸引をしていた。辛くて自殺される方も結構いました。
 梅谷 治療法のきっかけとなった患者さんについて教えて下さい。
 工藤 その方は5年くらい東大病院で見ていた患者さんです。前出の三上先生と一緒に診ていました。何度も入院を繰り返すうちに、やはりだんだん悪くなって、そのうちに来なくなってしまった。
 そして2年4カ月後、突然彼から電話がかかってきたんです。「治りました、先生!」って。私はびっくりしました。本当に治ったって?驚きましたね。この病気が治るというのは異常なことなんです。「どうしてたんだ?」って尋ねたら、「実はある開業医の先生の所で薬をいただいていました」という。

 その先生というのが、信州の松本で開業医をなさっていた。宮沢博先生でした。早速そこへ問い合わせをし、調べてもらうと、4種類の薬が処方されていた。一番非常識な使い方をしていたのがエリスロマイシンです。普通使う半分から3分の1の量しかない。しかも2年以上飲ませている。こんな馬鹿げた治療はないんです。
 編集部 エリスロマイシンというのは抗生物質ですね。
 工藤 抗生物質は、十分な量を短期間使うのが原則。少量を長期に使ったら、薬の効かない耐性菌が出てきてしまう。
 梅谷 効かない量を延々と飲ませているなんて、大学の医者だったらまず怒られますよね。
 工藤 怒られる怒られる!怒鳴られますよ。非常識です。だから治ること自体が非常識なんだ(笑)。
 梅谷 なんでそんな使い方をされたんでしょうか。
 工藤 宮沢先生は若い頃、新潟大学の薬理学教室に在籍されており、当時内科には桂重鴻教授がおられた。桂先生は抗生物質少量療法の提唱者で、赤痢やツツガ虫病が少量の抗生剤で治ることを提唱されていた。このお二人の直接のつながりは結局分らず仕舞ですが。
 梅谷 宮沢先生は患者さんが喜ばれるといって使っておられたということですが、それを工藤先生が取り上げて、この治療法を全国に広めたおかげで、死亡率が10%以下に減りました。多くの方が救われた。
 いつかは人に感染する
 工藤 宮沢・桂両先生は、エリスロマイシン療法のルーツというふうに理解しています。それを見出して世に出したのは私かもしれないけれど、この治療法はアメリカの内科専門医試験に出題されるほど、世界に知られるようになりました。
 エリスロマイシンなどのマクロライド系を使うこの治療法は、細菌を殺すための抗生物質として使っているわけではありません。現在では、その他の呼吸器疾患でも有効性が認められています。
 さらに我々が本格的な臨床試験をやらないといけないと思っているのは、インフルエンザなんです。今、鳥インフルエンザが大問題になっていますね。治療法には、本来は大きく分けて二つある。ウイルスがついたときにそれが繁殖しないようにする。あるいは細胞から他の細胞に出て行くメカニズムを止める。このタイプの薬がタミフルやリレンザです。そういう抗ウイルス薬は、確かに有効だと思いますね。
 

    白樺林 雪が少ない

 羊が丘牧場 レストハウスから

 

 梅谷 日本でのタミフルの備蓄はまだ不充分なようです。
 工藤 もう一つはなぜインフルエンザで人が死ぬかという問題。人から人へとうつるように突然変異を起こした時、その毒力が落ちてくれればいいんです。通常のインフルエンザ程度のレペルならいい。今の鳥インフルエンザは半数が死にますからね。ではなぜ死亡率が高いのか。体の側のある種の炎症反応が激しすぎるから、それで命を落とすんです。
 それに対する治療法として興味をもたれているのが、エリスロマイシンをはじめとする、マクロライド系の抗生物質です。熊本大学のねずみの実験では、14%の生存率を57%にまで高めた。名古屋市立大学の小児科では、インフルエンザに対して、タミフルとクラリスロマイシン、これはエリスロマイシンの兄貴分ですが、この併用が有効だという報告が出ています。これらの抗炎症作用について研究が進んでいるところです。鳥インフルエンザが変異するのを黙って待っているわけにはいかない。誰もが経験していないわけですからね、新型インフルエンザは。
 梅谷 今後、新型インフルエンザに移行していく確率は?
 工藤 必ず出てきます。いつかは分らないけれど。現在の鳥インフルエンザと同等の毒力を持っているか、人にうつるように変異した過程でものすごく弱力化してしまうのかは、まだ分かりません。誰もが予想がつかない。
 したがってワクチンの確保が世界的なテーマですね。急いで対策を進めるべきだと思います。
 梅谷 先生はたった一例の経験から、しかも自分がうまくいかなかった経験から学んで、新たな治療法を確立された。それがびまん性汎細気管支炎だけでなく、より多くの呼吸器疾患、さらには新型インフルエンザの治療の可能性にまで広がってきている。先生の謙虚で誠実な研究態度が生み出した数々の成果に感銘をうけました。今後の研究にも大いに期待しています。

 工藤 翔二
 昭和17年東京都生まれ。東京大学医学部卒業後、都立駒込病院などを経て、現在日本医科大学第四内科主任教授。東京都難病患者認定審査会委員。荒川区がん予防センター所長。著書に「在宅酸素療法の実態」(文光堂)「呼吸器疾患最新の治療」(南江堂)など多数。

 梅谷 薫
 昭和29年兵庫県生まれ。東京大学医学部卒業後、都内の病院の院長などを経て、現在千葉西総合病院消化器科部長。日本内科学会、消化器病学会、消化器内視鏡学会の専門医。著書に「小説で読む生老病死」等。

シリーズ アスベスト[

 07.12.22. 読売新聞 都内の工場跡地 住民1人 中皮腫死7人にアスベスト症状
  東京都大田区は21日、同区大森南の「ミヤデラ大森工場」跡地の周辺住民8人に、アスベスト(石綿)が原因と見られる症状が見つかり、うち1人が今年10月に死亡したと発表した。区はアスベスト飛散による環境暴露があったとみて、今後、周辺住民約4500人の健康調査に乗り出す。
 区によると、8人は50代〜80代の男女で、このうち70代の男性は悪性胸膜中皮腫で死亡した。ほかの7人のうち、5人はアスベストを吸い込んだ証拠となる胸膜プラークを発症。残る2人は胸水を引き起こし、70代の男性は別な病気が原因ですでに死亡している。
 8人はいずれも工場跡地に近接する東京労災病院の患者で、同病院が区に通報したことから発覚した。
 「ミヤデラ」(本社・品川区)によると、同工場は1930年からアスベストを使った断熱材を製造。88年に工場を閉鎖。建物は94年まで倉庫として使い、今は更地になっている。11月上旬、区が大気中のアスベスト濃度を調べたところ、異常は見られなかったという。
 

キャンプ場から撮った! 墨絵のようです。

シリーズ アスベスト[

 恒例のキャンプ場の餅つき

 

 07.12.6. 読売新聞 中小施設17%で石綿放置
       総務省抽出調査 200万棟、調査未実施

 吸引すると肺がんや中皮腫になる恐れがあるアスベスト(石綿)について、国土交通省の使用実態調査では対象外となっている旅館や診療所など延べ床面積1000平方b未満の中小民間施設42カ所を、総務省がサンプル調査したところ、16.7%の7施設で吹付けたアスベストが露出したまま放置されていることが5日、明らかになった。
 1000平方b以上大規模民間施設は国交省の実態調査により飛散防止措置などの対策が進められているが、中小施設については手付かずの状態。不特定多数の人が出入りする中小の民間施設は全国で200万棟近くあるとみられ、放置すれば、幅広く健康被害が及ぶ危険性があることが確認された。
 総務省の調査は、中央省庁の業務をチェックする行政評価の一環として行われた。同省は来週にも国交省に対し中小施設のアスベストの使用実態を把握するよう勧告する。
 サンプル調査は昨年8月以降、北海道、埼玉など15都道府県の42施設で実施。その結果、宮城2、山形1、愛知2、岐阜1、広島1の計5県の旅館や診療所など7施設で、天井裏や機械室に吹付けアスベストなどが使われていた。
 このうち、宮城の旅館や愛知のホテルなど4施設では所有者が吹付けたアスベストがあることを知らず、劣化して垂れ下がっている部分もあったという。
 政府はアスベストによる健康被害が社会問題化した2005年7月に実態把握を含め対応策を決定。国交省は約25万6000棟に上る大規模民間施設を対象に、自治体を通じた調査を続けている。昨年9月時点で調査を終えた約21万棟のうち7.5%でアスベストの露出が認められた。

シリーズ アスベストZ

 読売新聞 一面 アスベスト違法工事63件 解体・改修7件で飛散 昨年度、本社調査
 アスベスト(石綿)を使った建物の解体・改修工事で、2006年度に大気汚染防止法に違反する事例が全国で63件見つかり、飛散防止措置を怠るなど悪質な違反が40件を占めることが、自治体を対象にした読売新聞の調査でわかった。悪質な違反のうち31件は住民の通報などで発覚。アスベストが飛散した事例も7件あり、現行の監視体制では大量飛散が起こりかねない実態が浮かび上がった。
 大気汚染防止法は、アスベストを使った建物を解体・改修する際は都道府県や政令市などへ届け出と飛散防止措置を義務付け、自治体は立ち入り調査ができる。届け出窓口の184自治体によると、手続きミスなどを除く悪質事例40件のうち、無届けが30件、飛散防止措置なしでの工事が16件あった。また、25件は住民らが自治体に通報して発覚。6件は工事後に使用がわかった業者などが自主的に報告した。
 自治体の立ち入り調査をきっかけに見つけたのは9件あったが、大気汚染防止法にもとづく立ち入りでは4件のみ。残る5件は名古屋市と兵庫県西宮市、東京都中央区で、別の法令に基づく解体の届け出でアスベストについても調査する独自の制度などで見つけた。
 アスベストは安価・防音性に優れ、1960、70年代に吹付け材や建材として大量に使用された。しかし、粉塵を吸い込むと中皮腫や肺癌を起こすことがわかり、06年に製造が全面禁止された。
 市民団体「中皮腫・塵肺・アスベストセンター」(東京都)の永倉冬史事務局長は「悪質事例は氷山の一角で、届け出を前提にした監視体制の限界が明らかになった」と指摘する。
                 横浜で国際会議
 世界各国のアスベスト被害の実態や被害者支援などについて話し合う「国際アスベスト会議」が23、24の両日、横浜市内で開かれ、「アスベストは単なる労働問題でなく、緊急の公衆衛生問題」とする「横浜宣言」を採択した。市民団体などでつくる「石綿対策全国連絡会議」が主催し、米、英、仏、韓国など11カ国から被害者や研究者ら約380人が参加した。討論会では国内外の複数のパネリストが、アスベストを使った建物の解体・改修工事で飛散する点に触れ、「各国政府の対策は十分でない」「製造をやめても、(解体・改修で)アスベストにさらされてしまう」とする指摘が相次いだ。
 

イカカーテン 鰺が沢温泉 海の風で天然干し!!

   足利学校 校舎

 

 「法制度の限界」指摘の声 アスベスト 無届け工事 シートなし作業大量飛散の懸念
 アスベスト(石綿)を使った建物の解体・改修工事で、ずさんな工事が相次いでいる実態が明らかになった。しかし、現在の大気汚染防止法では悪質な違反を見つけだすのは難しい。アスベストを使った建物の解体や改修が本格化する中、周辺住民の健康を守る対策の徹底が求められる。(地方部 本田滋夫、)
              ■ずさんな工事
 東京都渋谷区のマンション。雨がっぱを着た男性オーナーが、駐車場天井(約90平方bの吹付け材をへらで落していた。粉塵の飛散防止措置をとっていないことを心配した住民が今年3月、区に通報した。担当職員は夜にもかかわらず、すぐ駆け付けた。吹付け材には最も毒性の強い青石綿が約50%含まれていたが、除去は大部分終わっていた。男性は「業者に頼むと約1000万円かかるから」と言った。
 神戸市では昨年9月、吹付け材の分析結果の出る前に、業者が工場解体に着手した。住民から「シートなしで解体している」と通報を受けた市が調査。業者は「工期を守るため。分析機関から『アスベストはない』と聞いた」と説明したが、白石綿を含んでいた。
 大気汚染防止法は、吹付けアスベストが使われた建物を解体・改修する場合、自治体への届け出とともに、@内部をシートで密閉するA機械で内部気圧を下げるB薬液を吹付ける――などの飛散防止措置を義務付けている。
 高度経済成長期の建物が解体時期を迎えたことなどもあり、04年度まで1000件台だった全国の届け出件数は、06年度は1万7000件となった。ある専門業者は「工事が急に増え、技術の未熟な業者が次々と参入している」と話す。

               ■監視体制
 自治体による立ち入り調査は04年度まで届け出件数の2〜4割だったが、健康被害が社会問題となった05年度は7割の7000件余に。違反は01年度のゼロから05年度に83件となった。
 しかし、深刻な違反は住民の通報などで発覚する例が大半だ。飛散防止措置をとらないような悪質業者ほど無届け着工が多いためで、「性善説」に立つ監視体制の限界も指摘される。
 一方で、独自の監視体制をとる自治体もある。
 名古屋市では昨年5月、10階建てビルの解体直前の現場を「念のために」と調査した市職員が、壁面を覆う金属パネルの裏に吹付けられた青石綿を発見した。パネルは数百枚。業者は飛散防止措置をとっておらず、そのまま解体されれば大量飛散が避けられなかった。
 名古屋市は06年度から、届け出のない解体工事でも、少しでもアスベストを使用した可能性があれば、現地調査をする。06年度は嘱託職員2人が計624カ所を調査し、3件の無届け工事を見つけた。市は「空振りも多いが、健康被害という代償を考えれば、徹底するしかない」と言う。

                ■課題
 大気汚染防止法には、大気中のアスベスト濃度を規制する環境基準がなく、アスベスト製品を扱う工場周辺の基準(大気1g中10本以下)が定められているだけ。このため、解体工事でアスベストが屋外に飛散しても、それだけで法律違反には問えない。環境省は「濃度と安全性に関する研究が進んでおらず、基準設定が難しい」と説明する。
 大阪府は昨年10月、吹付け材の除去作業をしている工場周辺で、大気1g中18本のアスベストを検出した。業者は作業基準を満たし、同法違反には問えなかった。ただ、府は解体工事などに適用する基準(大気中1g中10本以下)を条例で定めていたため、業者に再発防止を勧告できた。自治体制からは「法律に環境基準があれば即座に摘発でき、より強力に監視できる」との声も上がる。
 東洋大の神山宣彦教授(労働衛生工学)は、「業者の技術水準にばらつきがあるうえ、末端業者が低コストで工事を強いられる構造が背景にある。行政が全面に出て、ずさんな工事ができない状況を作ることが第一歩だ」と指摘する。

      「悪しき原理」排除を
 十分な工費をかけられる公共施設とは違い、民間の解体工事にいくらかけられるかは施主次第だ。しかも、アスベスト対策の特需″を背景に未熟な業者の参入が相次ぐうえ、過当競争がダンピングを引き起こす。悪質工事を招く要因に事欠かない。こうした「悪しき市場原理」で健康被害を引き起こされてはたまらない。工事の質の向上が図れるよう知恵を絞りたい。

     市民へ被害拡大も 中皮腫、肺癌
  アスベストを吸い込むと、癌の一種・中皮腫や肺癌などを引き起こされる恐れがある。中でも中皮腫は潜伏期間が30〜50年と長く、発症後も確立した治療法がないことから、アスベストは「静かな時限爆弾」とも呼ばれる。
 アスベスト使用のピークと重なる1971年ごろから、海外で健康被害に警鐘が鳴らされるようになり、国内でも、75年、アスベストを5%以上含む吹付け材の使用が禁止された。2006年には0.1%を超えるアスベスト含有製品の製造が全面禁止された。アスベストによる中皮腫患者らの医療費を、国が負担する救済制度もできた。
 しかし、中皮腫による死者は95年の500人から、05年の911人、06年の1050人と増え続けている。60、70年代にアスベストが大量に使用されたことと潜伏期間を考えると、死者はこれからも増え続けるとみられている。
 一方で、これまで明らかになった患者は、アスベストの製造工場や吹付け作業の現場で働いていた人がほとんどとされる。高度経済成長期の建物が大量に寿命を迎える今後、飛散防止措置をとらないような悪質な解体・改修工事が増えれば、一般市民に健康被害が拡大する恐れがある。

        発覚した悪質な工事例(2006年度)
             住民など通報
 
建物           内容         届出  飛散防止
札幌市のビル       解体完了前にシートを外す   ○    ×
札幌市のビル       解体完了前にシートを外す   ○    ×
札幌市のビル       除去現場を密閉せず      ×    ×
東京都渋谷区のマンション 所有者が自分で除去      ×    ×
東京都目黒区のアパート  対策とらず除去        ×    ×
東京都国分寺市の住宅   除去前に建物解体       ○    ×
千葉県松戸市の工場    知識不足で無届け除去     ×    ○
新潟県佐渡市の小学校   除去中に飛散事故       ○    ○
新潟県見附市の住宅    対策とらずに除去       ×    ×
富山市の住宅       所有者が自分で解体      ×    ×
富山県射水市の住宅    解体前に無届け発覚      ×    ○
富山県射水市の工場    固化作業前に無届け発覚    ×    ○
富山県小矢部市の工場   囲い込み作業前に無届け発覚  ×    ○
富山県小矢部市の工場   囲い込み作業前に無届け発覚  ×    ○
岐阜県恵那市の住宅    対策とらず解体        ×    ×
岐阜市の倉庫       解体前に無届け発覚      ×    ○
滋賀県草津市のタンク   ミスで無届け         ×    ○
和歌山市の医療施設    除去前に無届け発覚      ×    ○
大阪府八尾市のマンション 除去前に無届け発覚      ×    ○
兵庫県西宮市の住宅    対策とらず解体        ×    ×
神戸市の店舗       分析ミスで無届け解体     ×    ○
神戸市の工場       分析結果判明前に解体     ×    ×
神戸市のビル       分析ミスで無届け解体     ×    ×
福岡県大牟田市の工場   知識不足で対策不十分で解体  ○    ×
大分市の住宅       知識不足で無届け解体     ×    ○

       業者報告
東京都港区のビル     知識不足で無届け除去     ×    ○
千葉県市原市の焼却設備  分析ミスで無届け       ×    ○
千葉県市原市の煙突    改修で飛散事故        ×    ×
神奈川県寒川町の工場   除去で飛散事故        ○    ○
神奈川県厚木市の変電室  除去で飛散事故        ○    ○
岡山市の立体駐車場    除去で飛散事故        ○    ○

      自治体独自制度
東京都中央区のビル    無届けで固化作業       ×    ×
名古屋市のビル      事前調査不足で無届け解体   ×    ○
名古屋市の住宅      事前調査不足で無届け解体   ×    ○
名古屋市のホテル     事前調査不足で無届け解体   ×    ○
兵庫県西宮市のアパート  無届けで対策とらず解体    ×    ×
       立ち入り調査
甲府市のビル       解体前に無届け発覚      ×    ○
大阪市のビル       解体で飛散事故        ○    ○
広島県大竹市の倉庫    解体で漏出事故        ○    ○
神戸市のビル       除去で申請外の工法使用    ×    ○

 

   鑁阿寺(ばんなじ)

シリーズ アスベストY

 山の稜線がはっきりして来た

 

07.11.16. 安全管理研修会 IN日光
はじめに
現在、出産時等に止血剤として使用されたフィブリノゲンによるC型肝炎問題や、工場からの廃液による水銀中毒である水俣病の賠償問題がマスコミを賑わしています。また、一昨年は、クボタ神崎工場周辺住民の環境曝露から発したアスベスト問題がありました。その他、PCB問題、光化学スモック問題など、多くの健康被害問題が発生しています。
 これらの健康被害問題に共通することは、わが国の戦後復興期から高度経済成長期に原因があることです。たしかにわが国の国民生活は、その時期に想像もできないほど便利になり、変わりました。他方、このような健康被害問題も発生させ、多くの被害者が苦しみながら亡くなり、また、数十年経過した現在も健康被害と闘い、更に、新たな健康被害者を生み出そうとしています。また、これらの健康被害の原因となった薬剤や化学物質の有害性について国(官僚)が隠蔽を図っていたことも共通した事実です。
 欧米諸国では十数年前から、わが国でも平成16年からアスベストの使用が禁止されました。しかし、これだけ有害性が指摘され、健康被害の深刻さを認識した現在でも、中国や東南アジア、中南米の経済発展途上諸国では、アスベストの使用量を年々増加させています。この事実をわが国の戦後復興期から経済高度成長期に重ね合わせただけでも、このような健康被害問題の原因がどこにあったのか、国の在り方、官僚の存在、国や官僚と国民の関係などが、見えてくるのではないでしょうか。
Nさん 担当・自分の思いをストレートに主張・ガンバ Nさん!

1 今後のアスベスト問題
 アスベスト問題は、一昨年6月の「クボタショック」以来の大騒ぎ報道もなくなり、今は、全く報道もなく、過去の問題となっています。しかし、真にアスベストによる健康被害の深刻さは増すのはこれからです。平成16年の労働安全衛生法の改正でアスベストの使用が原則全面禁止されましたが、既に、「静かなる時限爆弾」を抱えさせられた人は沢山います。また、今後も健康被害をもたらす問題は残されたままとなっています。

(1)大量健康被害発症問題
 アスベスト曝露による健康被害の発症は、潜伏期間が長く、概ね、曝露後30年〜40年との統計結果が示されています。アスベストの大量使用時期が1974年(昭和49年)頃であるとの資料からすると、今後、大量発症時期を迎えることになります。研究結果では、胸膜中皮腫だけの年間死亡者数でも最大値で2010年には約2万人、2015年には約2万9千人、ピーク時の2030年では5万5千人とされ、中皮腫の2〜5倍の発症があるとも言われる肺癌や石綿肺の発症者を含めると今後膨大な健康被害が長期間に亘ることが予測されています。
 また、アスベスト曝露による健康被害の深刻さは、過去の歴史的背景や過去の職歴による強弱があるものの、どの地域でも、どの職種でも被害を被る恐れがあることです。健康被害者の話には、身に覚えのない曝露により、ある日突然宣告され、余命数年とされた例もいくつかありました。さらにアスベスト健康被害の特徴は、曝露の恐れから健康診断を受診しても潜伏期間には確認されず、医学的な証明もないまま不安な生活を余議なくされることです。

(2) 使用されたアスベストの撤去、処理問題
 わが国では、資料によると過去1000万トンのアスベストが輸入され、その90%が建築資材に使用されたとされています。この900万トンのアスベストを含有した建築資材のほとんどは、未処理のまま、囲い込み、覆いされた状態や、建築物として残されたままとなっています。また、処理されたとされるアスベストも消滅したのではなく、飛散の危険性を残したままで土中に埋められています。今後、建築物の老朽化に伴う建物の解体等の際や、処分地での曝露が問題となります。
 石綿予防規則(石綿則)が特定化学物質等障害予防規則(特化則)から分離、独立して平成17年に施行されましたが、この分離、独立は、解体等に伴う飛散による曝露の危険度の高さを示しています。この曝露危険度の高い解体等の作業は、石綿則が規定する義務や規制によって費用が高騰し、建設不況に喘ぐ建築業界にとっては絶好の市場となりました。その結果、新規参入が相次ぎ、各地で飛散の問題を発生させています。
 アスベストは、肉眼では確認できない極細の軽量物質であり、容易に飛散し長時間浮遊します。浮遊範囲は、現在、約2kmまで確認されており、解体等現場や産業廃棄物処分場内での曝露はもちろん、その周辺での曝露の危険性もあり、少量の曝露でも発症するとされる中皮腫の健康被害が危惧されます。
 また、アスベストの微細な繊維は目に見えず、臭いもないため、こうした濃度は測定しない限り分かりません。私達が「凄いほこりだ」と感じるのは発生直後に大きな粉塵が大量に浮遊しているためで、そうした大きな粉塵は比較的短時間で落下します。小さい軽い粉塵は長時間漂い(調査では、24時間・2km)風に流されて遠くへ飛散し、人はそれと知らずに吸い込んでしまいます。また大きな粉塵は喉、気管で止まります。小さい粉塵ほど肺の奥の肺胞にまで達し、肺癌や中皮腫の原因となるのです。
 このように黙視不能、無臭、拡散、浮遊、再飛散がアスベストの特徴なのです。それが曝露の自覚のない健康被害の原因であり、また今後の対策を十分に行わなくてはならない理由なのです。
 

    海の中の岩島

     朝の灯台

 

2 アスベストの基礎知識
(1)アスベストの種類と特性
 @ アスベストの種類
  アスベストは石綿(いしわた・せきめん)とも呼ばれる複合鉱物繊維であり、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、クリソタイル(白石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの5種類があり、使用された90%が白石綿であり、発癌性が最もたかいのが青石綿です。
 A アスベストの特性
  アスベストは頭髪の約5000分の1の太さの肉眼では判別できない微細鉱物であり、「奇跡の鉱物」、「魔法の鉱物」と呼ばれるように、安価で加工し易く、耐熱性、耐腐食性、耐科学薬品性、耐電気性、耐摩耗性などあらゆる特性を有している。また、親和性に富んでいることから、多くのセメントなどと混合して建材として使用されていた。
(2) わが国でのアスベストの使用状況
 @ アスベストの輸入実績
  わが国でもアスベストに関する古い記述が残されているが、昭和初期から軍艦に使用されたのが本格的使用の始まりとされており、戦前や戦時中に一部が国内で採掘されていた以外、カナダ、南アフリカ等から輸入され、2004年の原則禁止までの間、世界総生産量の6%を消費した世界有数の使用国であった。
 A アスベスト含有製品
  アスベスト含有製品の定義としては、特化則で1975年(昭和50年)に含有量5%未満、改正された1995年(平成7年)には1%未満の製品とされていた。
  アスベスト含有製品の数は3000種ともいわれ、日用品、船舶、車両、建材、発電設備等あらゆる製品に使用されていたが、その消費量の90%は建築資材であると言われている。
 B アスベストの規制
  1971年(昭和46年) 特化則で発癌物質に指定
  1975年(昭和50年) 特化則改正、5%規制 (吹付け石綿原則禁止)
  1989年(平成元年) 大気汚染防止法改正 特定粉塵に指定
               工場敷地境界濃度10f/?
  1991年(平成3年)  廃棄物処理法改正 特定管理物質に指定
  1995年(平成7年)  労働安全衛生法改正 
             青石綿、茶石綿の製造等禁止 特化則改正1%規定
  1996年(平成8年)  労働安全衛生法改正 健康管理手帳の交付
                対象を石綿関連作業に拡大
  2004年(平成16年)  労働安全衛生法改正 石綿製品の原則製造等
                禁止
  2005年(平成17年)  石綿則制定 建築物等の解体、改修時の規定
                強化

3 アスベストによる健康障害
(1) 職業性曝露と環境性曝露
職業性曝露
 直接曝露

 @ 石綿鉱山及び関連施設での作業
 A 石綿製品製造関連作業
 B 石綿原料及び製品の運搬等作業
 C 石綿吹付け作業
 D 石綿製品を使用する断熱及び保温のための被覆、補修作業
 E 石綿製品の切断等の加工作業
 F 石綿が使用された建築物の解体、補修作業
 G 石綿が使用された船舶、車両の補修及び解体作業
 H 石綿不純物鉱物の取扱作業
 I @〜Hの作業と同程度の作業
間接曝露
 J 上記周辺での作業
観境性曝露
 周辺曝露  「鉱山、工場、建設現場、廃棄処分場等周辺での曝露」
 家庭内曝露 「曝露衣類等による曝露」
 土壌曝露  「曝露汚染土壌による曝露」

(2) アスベスト関連疾患と労災認定
 @ 石綿肺

  石綿肺は塵肺の一種であり、肺内組織である肺胞に粉塵が蓄積することにより、肺が硬化し機能を失う疾病です。初期症状として坂道や階段、平地での急ぎ足のときに息切れを自覚し、進行後は呼吸困難や咳、痰の症状があらわれ、肺がん等の合併症や合併症に起因するその他部位の癌発症等によって死亡する現代医学でも不治の病とされている。また、他の塵肺とは、X線画像によって判別することができ、発症まで数十年の潜伏期間があるとされている。
 

 青森駅前 青函連絡船も見える

   夕方の岩木山の山麓

 

 また、石綿肺の発症原因は、高濃度の石綿粉塵による長期間曝露とされ、職業性曝露とされるが、環境性曝露によっても発症した実例があり、石綿健康被害救済法(石綿新法)の改正が望まれている。
 石綿肺の労災認定は、塵肺法が適用され、同法が規定する管理区分1〜4のうち管理区分2・3の場合には、塵肺に起因して発症するとされる法定合併症が、管理区分4の場合には、塵肺自体が労災保険の補償対象とされる。労災補償の対象日は、管理区分2・3については法定合併症と診断された日、管理区分4については、管理区分申請時の診断日とされ、死亡した際の遺族補償認定要件は、死亡原因が法定合併症、または、合併症に起因する疾病とされる。そのた、労働安全衛生法では、管理区分2・3の認定者に健康管理手帳を交付する制度を規定している。
A 肺癌
  疫学調査によると、曝露期間10年未満では発症例が少なく、発症するまでの期間はおよそ30年とされるが、アスベストと肺癌の発症関係は、石綿関連作業とされる分野においても大きな相違があり、鉱山、摩擦材製造、粉砕業ではリスクが低く、セメント工業や石綿混合工業では比較的高く、紡績業や断熱作業では最も高い。この原因は不明とされるが、アスベストの長さによると推測されている。またアスベストと喫煙には相互作用があるとされ、アメリカでの肺癌死亡調査によると、アスベスト曝露者で喫煙者は、10万人当たり601.6人、アスベスト曝露者で非喫煙者58.4.人、アスベスト非曝露者で喫煙者122.6人、アスベスト非曝露者で非喫煙者13.1人とされている。
  石綿肺患者が肺癌を発症し、死亡する割合は20%とされるが、原発性肺癌には、労災認定基準が設けられている。しかし、認定基準を満たすためには、石綿関連作業に従事した期間が不明な場合や10年未満の場合、胸膜プラークや石綿小体の存在が要件とされ、本来は中皮腫の2〜5倍とされるべき労災認定例が中皮腫を大きく下回っている。
B 中皮腫
  中皮腫は、曝露から発症までの潜伏期間が概ね40年とされ、その間、何の兆候もなく、健康診断でのX線陰影の指摘、突然の胸水などで専門医に受診した結果、病名を告げられることが多い。中皮腫は、アスベスト繊維がなんらかの原因で胸膜、腹膜、精巣鞘膜に付着し発症する疾病であり、治療法は、手術による鞘膜の剥ぎ取りや肺の摘出、X線照射、抗癌剤の投与、漢方、またはこれらの組合せであるが、特効薬と期待したアリムタの効果も期待するほどではなく、患者は副作用にも苦しむ不治の病であり、発症後5年生存率3.7%とされている。また、中皮腫は、低濃度、短期間曝露でも発症するとされ、環境性曝露による健康被害者の大多数はこの中皮腫であるとされている。
  中皮腫の労災補償には認定基準が設けられているが、わが国では中皮腫の発症原因はアスベストとほぼ断定され、中皮腫と診断した病院が信頼できる場合、石綿関連作業へ従事したことを立証すればよく、比較的労災認定が得やすい。

C 良性石綿胸水(石綿胸膜炎)
  良性石綿胸水は、アスベストに曝露し胸水が溜まり、胸水が消失後、多くは「びまん性胸膜肥厚」や肺炎を発症し、慢性呼吸不全で死亡する石綿関連疾患の一つである。潜伏期間は概ね30年程度とされ、発症から死亡までの期間は、2〜8年とされる。
  良性胸膜胸水の労災補償は、発症例が少なく、アスベスト以外にも発症原因があり、医学的詳細所見が求められることから、本省協議とされている。
D びまん性胸膜肥厚
  びまん性胸膜肥厚は、高濃度のアスベストによる長期間曝露した職業性曝露者に出現する臓器側胸膜の凹凸の病変で、壁側胸膜と臓器側胸膜が癒着するのが、胸膜プラークとの違いであり、中皮腫の発症リスクが高い石綿関連疾患の一つである。
  労災認定基準では、良性胸膜胸水同様に発症例が少なく、アスベスト以外での発症原因も有り、医学的詳細所見が求められるところから、本省協議とされている。
E その他の石綿関連疾患
  消化管癌、喉頭癌、腎臓癌、悪性リンパ腫瘍などアスベストとの関連が疑われているが、顕著な調査結果もなく、石綿関連作業の従事期間、胸膜プラークや石綿肺の有無、石綿小体や石綿繊維数を考慮した本省照会として扱われている。
(3) 胸膜ブラークと石綿小体
 @ 胸膜プラーク
  胸膜プラークは、壁側胸膜に出現する凹凸状の胸膜病変であり、病変進行に伴い胸膜の石灰化や中皮腫の発症リスクの高い胸膜病変であり、アスベスト曝露の指標とされる。
  非石灰化の胸膜プラークのX線撮影による検出率は低く、臓器側病変である「びまん性肥厚」との誤診が指摘されていたが、胸部CTの普及により検出率が向上した。また、最初の曝露から10年未満での出現はなく、15〜30年が出現期間とされている。
 

   水軍の宿 玄関

  静かな 日本海

 

A 石綿小体
  吸引されたアスベストは、肺胞で免疫物質により排除されるが、長い繊維は排除されず残存し、鉄成分が付着し石綿小体を形成する。この石綿小体の存在がアスベスト曝露を示す指標であり、濃度によって曝露レベルが評価される。

 肺組織中の石綿小体濃度        石綿曝露レベル
 (石綿小体数/1g乾燥)
  <1000         一般住民レベル(職業曝露の可能性が低い)
 1000〜5000     職業性曝露の可能性が強く疑われる
 >5000         職業性曝露があったか推測される

 しかし、青石綿、茶石綿が肺内に多く滞留するに対し、白石綿は肺組織外の胸膜等に多く滞留することが研究結果から明らかにされ、濃度1000本/1g乾燥未満の中皮腫発症者も存在し、肺組織内石綿小体濃度を基準とした石綿新法の認定基準には疑問が残るとの指摘がある。

 4 アスベスト無料労働相談会の相談例
 (1)相談件数
 昨年4月より栃木県会で開設したアスベスト対策室による相談件数は、開設時に下野新聞の報道もあり当初は順調な滑り出しであったが、昨年9月以来相談例が全くなく現在の相談件数は10件です。
  (2) 労災請求事例
 相談内容は別紙の通りであったが、相談者が死亡診断書の写しを持参し、その死亡診断書の死亡原因が悪性胸膜中皮腫と記載されていること、死亡診断書の発行は国立●●病院であることから、新法、若しくは労災法が適用されることに問題がなく、また、相談者からの強い要望もあり、調査を了承し開始した。@ 労災請求上の問題点
 労災を請求するためには、死亡原因や証明した医療機関には問題がなく、業務との相当因果関係の立証だけがポイントであった。つまり、金型製作とアスベストの接点が何かの作業であったのか、その作業に関わっていたのか、それを証言する人に出会った。金型製作とアスベストの接点については、金型は強固でなければならないこと、金属を強固にするためには焼入れ工程が必要であること、焼入れ工程には高温炉が欠かせないこと、当時の高温炉には断熱材として一般的にアスベストが使われていたこと、鉄やガラスの炉では労災認定事例が数例あること、などから、故人の曝露源は高温炉であると確証した。しかし、ここからが難関であり、故人とは金型研究会を通じて、古くからの仲間であった再就職先の社長の好意的な話も、曝露した会社の話になると、トーンダウンし、高温炉に関わる話は聴けず、全く打つ手がありませんでした。そんな折、想いもよらない朗報が相談者から寄せられました。その朗報は、30数年前の故人の手帳が存在し、その手帳に焼入れや高温炉の記載が多数あるとのことでした。

 遺族補償の時効5年まで4月間と迫った本年4月、この手帳を唯一の証拠とし、基労補第0727001号(転々労働者の取扱い)通達による取扱いを信じて、それまでの調査結果や経歴、請求者の主張などを申立書として遺族補償請求書に添付し、曝露会社を管轄する柏労働基準監督署に送付した。
 A 平均賃金算出の問題点
   この事例の労災補償請求の給付基礎日額は、10、126円との回答を得ている。この事例のように算定事由発生日(中皮腫と診断された日)に、すでに、曝露のおそれのある事業所を離職し、また、離職した事業所が廃業し、離職当時の賃金が不明な場合の平均賃金の算定は通達(基発第556号 昭和50年9月23日付け)により幾通りか方法が示されているが、この事例での算定は、次の方法により推定算定されたものと思われます。
 (a) 算定事由発生後の最新の賃金構造基本統計調査の基礎額(職種・企業規模年齢階級別の現金給与額の全国計月額)
 (b) 都道府県別格差
   (産業・企業規模・性・年齢階級別の該当都道府県月額÷全国計月額)
 (c) 賃金水準変動率
   (算定事由発生日の前々月の毎月勤労統計調査額÷(a)の4半期平均月額)
 (d)30.4
    (365日)÷12月
    推定算定方式(a)×(b)×(c)÷(d)
    アスベストによる健康被害は、潜伏期間が長期に亘ることから、平均賃金の算定に難しい問題や疑問を生みます。平均賃金の算定は、曝露時の賃金が基礎とされることから、低賃金であった時期の算定であり、発症時の現実的損失の補填になるかとの疑問が起こっています。また、発症時期により、同額の平均賃金でも被害者に影響を及ぼす影響はさまざまであることも疑問です。曝露後、20年で発症した被災者の場合、年齢的に経済負担の重い時期であり、一方、50年後で発症した被災者は、多くが退職後の時期です。
 

  八戸市のお土産屋 七福神

    足利学校

 

          アスベスト関連労災補償新通達
                        基労補発第0727001号
                        平成17年7月27日
都道府県労働局労働基準部長殿
                        厚生労働省労働基準局
                        労災補償部補償課長

   石綿による疾病に係る事務処理の迅速化等について

 石綿による疾病の業務上外に係る調査については、昭和53年10月27日付け事務連絡第41号別紙「石綿による疾病の業務起因性判断のための調査実施要領」(以下「実施要領」という。)によることとされているところであるが、今般、特に石綿による疾病にかかる事務処理の迅速化等を図るため、下記により、石綿曝露作業従事歴の事実認定の迅速化、請求書の受付に係る事務処理の明確化を図ることとしたので、適格な対応に遺憾なきを期されたい。
                    
1 転々労働者等に係る石綿曝露作業従事歴の事実認定の方法について
(1)趣旨
  石綿による疾病については潜伏期間が特に長いといったような特徴があり、そのため労災保険の請求時においては既に事業場が廃止されている等の事情から石綿曝露の事実については同僚労働者等に確認する等の方法で認定する事例も少なからず見られるところである。
  しかしながら、中には同僚労働者等も既に死亡している等、このような方法のみでは事実認定が極めて困難な事例もあり、また、調査に多大な時間を要している実態もあることから、石綿曝露歴の事実認定が極めて困難な場合における特例的な事実認定(以下「転々労働者等の事実認定」という。)の方法を示すこととしたものである。
  したがって、被災者が石綿曝露作業に従事した事業場を特定するよう努めるとともに、特定できた場合には当該事業場に係る調査を行うべきことは当然であり、また、事業場が廃止されている場合等であっても、原則として事業主・同僚労働者等から当該労働者の石綿曝露状況の確認に努めた上で、それが不明な場合に限って、転々労働者等の事実認定を行うものとすること。
  なお、転々労働者等の事実認定は、認定基準に定める各要件を緩和する趣旨ではないこと。
(2)転々労働者等の事実認定の対象
  転々労働者等の事実認定は、原則として次のアまたはイの事案であって、事業主・同僚労働者等から当該労働者の石綿曝露状況の確認が困難なものについて行うこと。
 ア 被災者が石綿曝露作業に係る事業場を転々としている場合
 イ 退職後相当期間経過している事案であって、被災者の所属していた事業場が廃止された場合
(3)転々労働者等の事実認定の具体的方法
 ア 石綿曝露作業に係る調査と事実認定
 (ア)請求人の以下の@からFまでのいずれかの作業に従事していたとする主張及びそれを裏付ける資料に基づき、以下の@からFまでのいずれかの作業に被災者が特定期間従事していたと判断できる場合には、石綿曝露の恐れがないことが明白な場合を除き、被災者が石綿曝露作業に当該期間従事していたと事実認定して差し支えないこと。
    したがって、請求人から可能な限り作業の内容を聞き取り、石綿曝露の恐れのないことが明白でないことを確認しておくこと。
    @ 耐火建築物に係る鉄骨への吹付け作業
    A 断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業
    B スレート板等難燃性の建築材料の加工
    C 建築物の解体
    D 鉄骨製の船舶又は車両の補修又は解体作業
    E タルク、バーミキュライト及び繊維状ブルサイト等の取扱い作業
    F @からEの作業が行われている場所における作業

Nさん 社会保険労務士らしい研修となりました。心から感謝″!!!

シリーズ アスベストX

  舘岩街道 本格的に紅葉始まる

 

アスベスト(石綿)の健康被害をご存知ですか?
1 以下の仕事を経験した方はいませんか
 @ 石綿製品の製造工程の仕事
 A 耐火建築物に係る鉄骨等への吹付け仕事
 B 断熱又は保温のための被覆又は補修の仕事
 C スレート板等難燃性の建築材料の切断等加工の仕事
 D 耐火建築物内の電気配線工事・配管工事の仕事
 E 建築物の補修又は解体の仕事
 F 船舶又は車両の修理又は解体の仕事
 G タルク、バーミキュライト及び繊維状ブルサイト等の取扱いの仕事
 H 倉庫内等における石綿原料・製品の袋詰め又は運搬の仕事
 I 石綿鉱山又はその附属施設において行なう石綿を含有する鉱石・岩石の採掘、搬出・粉砕その他石綿の精製に関連する仕事
 このような仕事の経験のある方は、平均潜伏期間(病気が発症するまでの期間)35〜50年と長い方もあります。発症年齢は60〜65歳が多いという報告です。
 すべての石綿及び石綿製品(原子力発電関連など一部を除く)2004(平成16)年10月に使用禁止となっています。
2 石綿との関連が明らかな疾病としては
 @ 原発性肺がん
 A 中皮腫(胸膜・腹膜・心膜・精巣鞘膜「せいそうしょうまく」)
 B 石綿肺
 C 良性石綿胸水
 D びまん性胸膜肥厚(胸膜プラーク)
3 石綿による疾病の症状
 @ 息切れがひどくなった場合
 A 咳や痰が以前に比べて増えた場合や痰の色が変わった場合
 B 痰に血液が混ざった場合
 C 顔色が悪いと注意されたり、爪の色が紫色に見える場合
 D 顔がはれぼったい場合、手足がむくむ場合や体重が急に増えた場合
 E 激しい動悸がする場合
 F 風邪をひいて、なかなか治らない場合
 G 微熱が続く場合
 H 高熱が出た場合
 I 寝床に横になると息が苦しい場合
 J 食欲がなくなった場合や急にやせた場合
 K やたらに眠い場合

                   発生の箇所を具体的に記した図式です。

石綿の性質と特徴

 石綿の持つ優れた性質は、次のとおりです。
 1 木綿や羊毛と見間違うほどにしなやかで糸や布に織れる(紡織性)
 2 引っ張りに強い(抗張性)
 3 摩擦・摩耗に強い(耐摩擦性)
 4 燃えないで高熱に耐える(耐熱性)
 5 熱や音を遮断する(断熱・防音性)
 6 薬品に強い(耐薬品性)
 7 電機を通しにくい(絶縁性)
 8 細菌・湿気に強い(耐腐食性)
 9 比表面積が大きく、他の物質との密着性に優れている(親和性)
 10 安価である(経済性)

 石綿は、極めて細い繊維状の鉱物で、束になっている繊維をほぐすと木綿や羊毛とおなじように糸や布に織れます。ほぐした細い繊維を丸めれば、その名の「綿のような石」が示すようなしなやかでふわふわした、布団の綿のようになります。(右上写真)さらに、引っ張りに対してはピアノ線よりも強く、熱にも強く、かなりの高温でも燃えたり変化したりしないなどの優れた性質を持っていて、安価なのが魅力です。
             アスベスト汚染と健康被害・森永謙二著より抜粋
 

   アスベストのレントゲン写真

シリーズ アスベストW

    山全体が紅葉

 

 下野新聞・平成18年1月18日
 自民・石綿救済新法を了承 遺族の申請は3年以内
  自民党は17日、「アスベスト(石綿)問題対策関係合同部会」を開き、20日開会の通常国会冒頭に提出する「石綿による健康被害の救済に関する法律案」と、被害防止関連改正法案を了承した。
 救済法案によると、国が中皮腫など、対象疾病の認定基準を定め、認定患者には「石綿健康被害医療手帳」を交付。医療費などを支給する。既に亡くなった労災対象外の被害者遺族には特別遺族弔慰金と葬祭料が支給されるが、申請期間は法施行日から3年間と定めた。
 具体的な給付は別途、政令で定めるが、政府は昨年、@治療中の患者に医療費自己負担分と療養手当月額10万円A既に死亡した労災対象外の被害者の遺族に特別遺族弔慰金280万円と葬祭料約20万円B時効で労災申請できなかった元従業員遺族に特別遺族年金年240万円を支給する方針を明らかにしている。

 当事務所での相談は無料です。ただし電話相談は受けません。労災申請などについては、成功報酬(被害者に給付金が入金されたことを確認)となります。
 今後、アスベストによる発症は年間約1万人であろうという研究報告もあり、年間の交通事故死の約7千人を上回るものです。

シリーズ アスベストV

 読売新聞・平成18年2月1日
 アスベスト新法 衆院可決 給付水準に根強い不満

  アスベスト(石綿)による健康被害者救済法案が31日、衆院で可決された。2月3日にも参院で可決・成立する見通し。政府は今年度内に被害者からの申請の受付を始める方針だが、給付水準への不満は根強い。
 同法案では、労災補償が適用されないアスベスト関連工場周辺の住民や従業員の家族に対し、既に死亡した被害者の遺族には弔慰金280万円と葬祭料20万円の計300万円を支給。治療中の被害者には、医療費の自己負担分と月額10万円の療養費が支払われる。
 こうした救済内容について、母親を中皮腫で亡くした大阪市の主婦荻野ゆりかさん(28)は「国は遺族や患者の苦境をわかっていない」と、悔しさをにじませる。母親は機械メーカー「クボタ」の旧神崎工場(兵庫県尼崎市)近くに住んでいた。「何の落ち度もない被害者なのに、なぜ労災補償と差があるのか」と憤る。「関西労働者安全センター」の片岡明彦事務局次長も「法制定は当然だが、その中身は患者や遺族の声に応えていない」と批判する。

 労災補償の現状としては、石綿による肺癌は1960年頃、中皮腫は1978年にそれぞれ始めて労災が認定された。
 @ 1960年代末頃から1990年代中ごろまでの間、年間20万トン以上の石綿が輸入されており、石綿曝露作業従事者等が長い潜伏期間を経て発症する時期にきていること。
 A これまでに石綿に係ることが何回か社会問題化しており、労使、医師等の間で石綿が肺癌・中皮腫の原因になることが知れわたるようになり、労災請求が増加したこと。
 B 1995年〜2003年間に中皮腫による死亡者数は、7373人でしたが、1960年〜2003年間における中皮腫の労災認定件数354件と極端に少なくなっている。
 C 栃木県に限ると1995年〜2004年間の中皮腫による死亡者数77人のうち、労災認定件数はたった2件です。
 法律が制定されても、申請しなければ労災補償はもらえない。
 06.1.23.朝、降雪・社員が会社前の歩道を雪かき中、転倒し手首を骨折した。雪かきは、その日特に会社が直接指示したものではないが、出入りする社員や来客のために、玄関先の歩道を数人の若手社員で行なっているのが慣習のようになっている。この事故は業務上の災害として認められるか。
 
 骨折した社員は、会社の業務運営の必要上、雪かきをしていたものと思われます。雪かきを要する程度の積雪があれば雪かきを行なうことが業務の一環として位置づけられ、かつ、雪かきを行なう担当者があらかじめ想定されているとすれば、降雪の都度、事業主の指示がなくても、業務遂行性が認められると解されます。
 また、雪かきをしていた箇所が公道であったとしても、会社に出入りするために必要な常識的範囲内であれば、特に問題はなく、雪かきをしていて、単に滑って転倒したというのであれば、業務起因性についても否定する要素はなく、通常業務に付随する行為を遂行中に発生したものと考えられ、業務上災害と認定されるものと思われます。
  労働基準広報・06.2.1.より抜粋
 

   中々美しい所ですねぇ〜

シリーズ アスベストU

 このように真っ赤に紅葉してる。

 

 アスベストは「静かな時限爆弾」といわれ、吸ってすぐでなく、20〜50年後に癌の一種「中皮腫」を発病
 アメリカの有名俳優・スティーブ・マックィーンもアスベストで死亡
「荒野の7人」「大脱走」「パピヨン」など数多くの名画で有名なので、懐かしく思い出す人も多いことでしょう。この大スターが、アスベストを原因とする中皮腫で亡くなったのは、1980(昭和55)年、50歳のときでした。
 当時、すでにアメリカでは、中皮腫はアスベストを原因として起こることが定説になっていました。マックィーン本人も、いつどこでアスベストを吸い込んだか調べています。マックィーンは、その可能性を二つ考えていたようです。一つは、17歳で軍隊に入り、数年間所属した海兵隊で、船舶の断熱材に使われていたアスベストを吸い込んでいたこと。もう一つは趣味のカーレースで使ったレース服やマスクなどに断熱のため使われていたアスベストを吸っていたことでした。
 しかし、この二つの時期に吸い込んだアスベストは体に何の変調も起こさないまま、マックィーンはハリウッドで頭角を現し、スポーツ好きのタフガイとして大活躍しました。そして、アスベストを吸い込んでから数十年たった49歳のときに発病。早くも、その翌年には、死を迎えたのです。つまり、マックィーンは、アスベストを「静かな時限爆弾」として数十年も抱え込んでいたことになるのです。
 では、なぜ、アスベストは、「静かな時限爆弾」といわれるほど発病までの潜伏期間が長いのでしょうか。
 アスベストは髪の毛の約5000分の1.直径0.1ミリの髪の毛に比べて直系0.02マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)と、直径数十マイクロメートルの花粉よりも小さく、肺の奥深くまではいり込み、細胞などに刺さりやすくなっているのです。
 そして、アスベストは一度吸い込まれると、痰などと一緒に体外へ排出しにくいという特徴を持っています。アスベストは、熱にも酸にも強いため、何十年も体内にとどまります。その間に細胞などに突き刺さって刺激を与えつづけ、それによって、中皮腫や肺癌などの病気を引き起こすのです。
 夢21・2006.@.新年号。平野敏夫著より一部抜粋

シリーズ アスベストT

 読売新聞 06.2.18掲載 神戸で労災認定
 夫が死亡したのはアスベスト(石綿)を吸引したことが原因として、造船会社「川崎重工業神戸工場」(現・川崎造船神戸工場、神戸市)の元造船工の妻が申請していた労災認定について、神戸東労働基準監督署は、元造船工の死因を胸膜悪性中皮腫と認定し、遺族補償年金の支給を決定した。
 支給額年約280万円で、一時金や葬祭料の給付も認められた。元造船工は1948年から87年まで同工場に勤務し、一昨年6月に71歳で死亡した。
 

   ただ見とれてしまいます。

 
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