被災労働者(男・40代後半)は、昭和62年頃からAゼネコンの施工図の作図業務をおこなっていた。 平成15年7月頃から大手自動車メーカーの工場建設の施工図作図に携わっていた。 平成16年初冬、竣工式の当日、現場の設計管理室でパソコンを開いた机の脇で「脳幹出血」で倒れ、病院へ搬送されたが、当日死亡。 この事例では、「労働者性」「業務起因性」が焦点となったが、U監督署長は不支給処分、審査官も「棄却処分」となり、再審査で「移送」されていないとの理由で処分され、S労働基準監督署が再度、取り扱うこととなった。
1 労働者性 労災保険の保険給付の対象となる「労働者」は、労基法第9条に規定されるとおり「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」とされている。したがって、雇用の形態の別は問われない。しかし当ケースのように外形的には、委任を受けて業務を行う者が労働者に当るか否かは、使用従属関係があるかどうか個別に判断されることとなる。 (1) 『使用従属性』に関する判断基準 @ 「指揮監督下の労働」に関する判断基準 ア 仕事の依頼、業務指示などに対する諾否の自由の有無 イ 会社による業務の具体的内容及び遂行方法に関する指示の有無、業務の進捗状況に関して本人からの報告等による把握・管理している事実の有無 ウ 勤務時間に関する定めの有無、本人の自主管理及び報告による「使用者」の管理の有無 エ 当該業務に従事することについての代替性の有無 A 報酬の労務対償性の有無 (2) 労働者性の判断を補強する要素 @ 事業主性の有無 ア 自宅に設置する機械、器具等の規模や所有関係 イ 報酬の額(正規従業員と比較して著しく高額か否か) B 専属性の程度 ア 他社の業務に従事することの制約性、困難性 イ 報酬の生活保障的要素の有無(固定給部分の有無等)
なお、審査会は、本件については、被災者が会社関東支店の労働者であったか否かを更に検討した上で、本件に係る遺族補償給付及び葬祭料の支給の可否を判断すべきであったと判断される。 イ 請求人は、被災者が本件工事現場で本件疾病を発症したため、当該現場を管轄する監督署長に請求書を提出し、再審査請求書の理由書においても、所長等の指揮監督を受けていた旨の主張も一部みられるが、提出されている各種資料や本件公開審理における発言等から、真意は、工事現場であれ、会社関東支店設計課であれ、所属にかかわらず、会社の労働者として本件疾病を発症したと主張していると認められること。 しかし、監督署長においては、管轄下の本件工事現場の労働者か否かの観点からの調査検討に限られていること。 ロ 施工図作図業務等に係る約定書は、生産設計課長との間に締結されており、開始日が平成11年5月1日の約定書から工事現場毎ではなくなり、また、開始日が平成13年4月1日の約定書からは、1年契約となっていること(乙第24号証)。 実際の業務も、被災者が作図に関係していた工事報告書を見ると、各工事が連続して、あるいは重複して行われていること。 ハ 工事現場の施工図作成については、現場所長から生産設計課長に依頼され、生産設計課長が約定書に基づいて被災者らに依頼がなされるものであること。 ニ 被災者らは、会社関東支店生産設計課の月極業者という位置づけであり、報酬の請求書及び自主的に提出していたとされる業務日誌は、いずれも会社関東支店生産設計課に提出され、支払いも会社生産設計課からなされていること。
U監督署長及び審査官は移送せず、判断し、不支給決定処分・棄却処分としたが、移送通知書を発行せず電話連絡するなど、今回の事例は「オソマツ」でした。 Aゼネコンの専用作図者(労働者性)を否定する資料として、被災者が使用していたパソコンデータも、後日専門家が復元したところ、図面にAゼネコンと印字されていた。杜撰な調査で棄却処分とした内容が明らかとなった。 「労働者性」について、民法の委任・準委任説で否定したり、工事関係書によるS監督署振り出しの労働保険番号も調査で一部確認できたにもかかわらず「移送」についての調査はしないまま、棄却処分をした。
業務の過重性の具体的評価に当って@ 労働時間A 不規則な勤務B 拘束時間の長い勤務C 出張の多い業務D 交替制勤務、深夜勤務E 作業環境F 精神的緊張を伴う業務のような負荷要因について検討すること。 長期間の過重について 平成13.12.12.日基発第1063号で「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門調査会」の検討結果を踏まえ、認定基準を新たに定めた。 1か月100時間を超える時間外労働、6か月を平均して1か月の時間外労働が80時間を超える場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること。
一つ一つ丁寧に調査・聞取り・関係者の助言を整理していたこと。循環器系疾患の労災申請には欠かせないことで非常に参考となる方法である。 1 発症までの概要 2 通常の作業及び作業環境 @ 労働時間及び休日 A 業務の内容 「施工図作図業務」「建築主、設計事務所との打合せ」「関連業者との打合せ」「その他の業務として」定例打合せ会議への出席、現場監督との打合せ、新しい次の現場の打合せ会議への出席、現場内部の打合せ、支社の行事への参加 B 作業環境 3 業務経歴 4 発症日当日の状況 5 発症日前1週間の状況 6 発症前1か月の状況 8 健康状態 既往歴 9 私生活について 「家族」「嗜好」「性格」「ストレス」「友人関係」「趣味」「スポーツ」「農作業」 10 労働者性について @ 仕事の依頼、業務上の指示等に対する諾否の自由 A 業務遂行上の指揮管理があるかどうか B 勤務場所時間が指定され管理されていたか C 労務の提供に代替制があるかどうか D 賃金の支払いについて E 専属性があるかどうか F 機械器具の負担関係について 11 結論 これが代理人の申立てた順番でした。
平成21年3月31日 S労働基準監督署より労災認定の電話連絡。参考として「約定書」が決定理由の一つであった。 平成21年5月1日 遺族補償年金・遺族特別支給金一時金・葬祭料の支給決定通知書が届いた。
昨年秋、東京地裁と大阪高裁で相次いで看護師の過労死が認定された。24歳と25歳の若い看護師の死である。 東京地裁の事件は、当直明けに意識不明となり、致死性不整脈(推定)とされた。月80時間の残業に、深夜の交代制勤務など不規則な勤務体制が認定の根拠とされた。 大阪高裁の事件は、帰宅後に、くも膜下出血を発症した。病院での残業時間は月80時間を下回っていたが、不規則な夜間交代制勤務など質的な過重性が根拠とされた。